前回の記事では、1981年に行われた耐震基準の大幅な改定「新耐震」や、日本人のライフスタイルの変化により住宅が陳腐化したため、中古よりも新築が好まれていたということを指摘した。住宅の品質向上が落ち着き、「新耐震」の住宅が中古市場に流通するようになった1995年くらいからは、“新築信仰”が薄れて住宅寿命が急激に伸び始めていることはデータで確認できる。それでも、欧米に比べると既存住宅が流通しておらず依然として新築中心の市場になっているではないかという主張もある。今回は既存住宅流通の側面から新築信仰について考えてみたい。

(写真:PIXTA)
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 最初に、前回の記事で紹介した、住宅寿命の測定法の1つである「サイクル年数」のデータを改めて掲載しておこう。サイクル年数とは、住宅ストックの総数を年間の新築着工数で割った値で、今のペースで建て替えを続けると何年で全ストックが建て替わるか、という数値である。

 「住宅・土地統計調査」のデータを暦年に平準化して、住宅着工統計のデータと組み合わせて計算できる過去のサイクル年数は以下のようになっている。

  • 1950年:54.2年(住宅総数1471万/着工数27.1万戸。以下同じ)
  • 1960年:42.4年(1919万/45.3万)
  • 1970年:18.6年(2778万/149.1万)
  • 1980年:30.2年(3671万/121.4万)
  • 1990年:26.2年(4356万/166.5万)
  • 2000年:42.6年(5170万/121.3万)
  • 2010年:71.8年(5880万/81.9万)
  • 2018年:65.5年(6241万/95.3万)

 今回注目したいのはサイクル年数ではなく、算出に用いた住宅総数の推移だ。1950年には1471万戸だったものが一貫して増加を続け、2018年には6241万戸と4倍以上に増えている。1960年ごろまでは、日本はまだ戦後復興の過程にあり、必要な住宅すべてを新築できるほどの余力がなかったと前回の記事で述べたが、新築物件が大量に供給された原点となったのは、太平洋戦争終結後の極端な住宅不足だ。大都市は米国の戦略爆撃により大きな被害を受けており、同時に復員と引き揚げによって国内人口も大きく増加。終戦直後は統計が十分整備されておらず実態が不明確だが、1958年(昭和33年)の「住宅統計調査報告」(現在の住宅・土地統計調査、以下「住調」という)では、住宅総数1793万に対して世帯数が1865万で、住宅が不足していたことが確認できる。

 その後も世帯数が住宅総数を上回るという住宅不足の状況は続き、解消されたのは1970年前後のこと。世帯数は、1960~2020年の60年間で2.4倍に増加したが、住宅数は同じ期間で3.4倍になっている。この間には三大都市圏への大規模な人口移動も起きている。つまり、新築が好きか嫌いかに関係なく、増え続ける人口と世帯数、大都市部への人口集中に伴う住宅需要を満たすためには、新築するしか選択肢がなかったのである。

 住宅は人口ではなく世帯数との関係のほうが強く、現在も世帯数はまだ大きく減少していないとはいえ、人口減少社会に入っている。旧耐震物件のような品質の低い住宅を更新するための新築がまだ必要だとしても、量的に新たな住宅を供給し続けなければいけないという状況ではない。ところが国土交通省が集計した「既存住宅流通シェア」は、2018年で14.5%にすぎない。米国の81.0%、英国(イングランド)の85.9%、フランスの69.8%と比べて非常に低い水準だ。流通面から見て「日本人の新築信仰は明らか」という主張が出てくる背景だが、筆者はこの数値が実態を表しているとはいえないと考える。