賃貸vs持ち家論争では様々な論点があり、その1つに、住宅ローンという多額の借金を負うことが大きなリスクだと指摘される場合がある。「年功序列や終身雇用が崩れたことで、住宅ローンのリスクは大きくなっている」という意見もあるが、果たして本当だろうか。今回は、いろいろな誤解もある住宅ローンについて整理してみたい。

本連載の17回目で紹介した通り、2021年は首都圏の新築マンション平均価格が史上最高値を更新したことが話題となった。価格高騰の背景には、「パワーカップル」と呼ばれる高学歴・高収入の夫婦が首都圏に多いことがある。史上最低の低金利が続いていることで多額の住宅ローンの借り入れが可能になっていることも大きい。
国土交通省の令和2年度住宅市場動向調査報告書によると、分譲戸建てでは67.7%、分譲マンションでは62.6%という多くの人たちが住宅ローンを利用していることが示されている。そして住宅ローン利用者のうち返済期間が35年以上なのは、分譲戸建てで69.3%、分譲マンションで69.2%。年間返済額の平均と年収に占める返済負担率は、分譲戸建てで123.5万円・18.6%、分譲マンションで139.1万円・17.4%となっている。
これに対して「多額の住宅ローンの借り入れはリスクだ」と指摘する有識者やコメンテーターが存在するが、果たして本当だろうか。
この調査報告書では、住宅ローンの返済についての負担感も聞いているが、「非常に負担感がある」のは分譲戸建てで6.2%、分譲マンションで7.2%と意外に低かった。
実際に返済ができているかどうかを、2019年全国家計構造調査で見てみよう。夫婦と子どもが2人の世帯(長子が未就学児・勤労者世帯)の金融負債残高は平均約1503万円、金融資産残高は平均約679万円となっており、住宅ローンの債務額が貯蓄額を上回っている。しかし、世帯主が65~74歳の夫婦のみ世帯(有業者のいる世帯)になると金融負債残高は平均約104万円なのに対して、金融資産残高は平均約1826万円とほぼ負債がない状態になっている。あくまで過去の実績ではあるが、住宅ローンはしっかり返せているケースが多いようだ。
家賃の滞納率は筆者の研究では4カ月以上の長期滞納は全体の0.7%だが、住宅ローンの滞納も同程度のようだ。
住宅ローンの滞納率は全て公表されているわけではないが、フラット35を提供している住宅金融支援機構の「統合報告書2021」では、件数ベースではなく債権額ベースで破綻先債権と実質破綻先債権の比率は全体の1.8%となっている。しかし、住宅金融支援機構以外の金融機関のほうが審査が比較的厳しいといわれており、ある住宅ローン保証会社からは「住宅ローン全体の破綻率は1%を大きく下回るのではないか」と聞いている。
また賃貸でも、家賃の支払いが数回遅れたくらいですぐに家を追い出されることはないのと同様に、住宅ローンも1度でも滞納すればすぐに住まいが差し押さえられ競売にかけられるわけではない。返済期間の延長など、貸し出し条件が緩和されることもある。
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