日本が高齢化社会に突入したといわれて久しいが、住まいを自由に選べない高齢者は年々増加している。それは、高齢者の増加と持ち家率の低下によって高齢者が必要とする賃貸住宅数が増えているにもかかわらず、高齢者が借りやすい住宅はなかなか増えないことが背景にある。今回はなぜ高齢者が家を借りにくいのか、その隠れた構造的背景について考えてみたい。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 この連載ではこれまで何度も「持ち家か賃貸か」というテーマを取り上げてきた。連載第4回で述べたように、年齢が上がるに従って持ち家率が高まることからも持ち家が有利であるのは自明と考えている。しかし一方で、第5回で紹介したように、持ち家率は近年低下している。例えば、住宅・土地統計調査の1998年と2018年を比べると、45~49歳の持ち家率は69.7%から60.5%と大きく低下している。

 このような状況を踏まえると、高齢化で世界のトップランナーである日本においては今後、高齢者の住まいをどうするかという問題を避けて通れない。

 平均寿命は1950年には男性63.6歳、女性67.75歳だったが、1990年には男性75.92歳、女性81.9歳と大きく伸び、2020年時点では男性81.64歳、女性87.74歳と男女ともに80歳を超えている。

 今生きている人が、どのくらいまで長生きするかは、平均余命という指標で推測できる。厚生労働省が作成している令和2年(2020年)簡易生命表によれば、現在50歳の人(ちなみに、日本人の平均年齢は47.8歳)の平均余命は男性33.12年、女性38.78年。つまり現在50歳の人は、平均で男性は83歳まで、女性は88歳まで生きることになる。このようにこれからも平均寿命は延び続け、男性で85歳近くになり、女性は90歳を超えると予測されている。

 例えば夫35歳、妻30歳だとすると、夫は85歳になるまでの50年間、妻の立場で考えれば90歳になるまでの60年間、住まいを確保しなければならないということになる。この時、35年ローンで家を買ったとすると夫70歳、妻65歳の時点で返済が終了することになり、妻はその後の25年間は家賃の心配はする必要がなくなる。この安心感が持ち家の大きなメリットと言えるだろう。

 しかし、賃貸住宅に住み続ける場合には、そうはいかない。夫35歳、妻30歳の時点で子どもがいる場合、少なくとも20年程度は比較的広い家が必要となる。子どもが独立して手ごろな住まいに引っ越すときには、夫は55~60歳、妻は50~55歳になっている。

 未来の不動産の状況を予測することは極めて困難だが、現状では夫60歳、妻55歳で家を借りることは、ややハードルが高くなっている。そして、例えば夫が85歳で亡くなったときに80歳の妻が新たに小さな部屋を借りることは極めて難しい。持ち家でローン返済が終了していれば、多少広い家でも問題はないが、年金生活で夫が亡くなった場合の年金額では家賃を支払いきれない可能性が高く、引っ越しを考えざるを得ないが、現状ではなかなか貸してくれないのである。

次ページ 法律を厳守すれば高齢者には貸せない