(写真:PIXTA)
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 日本には空き家があふれていて大変だ……。そういった報道を目にすることが増えている。その際によく使われるのは、総務省統計局が公表している「住宅・土地統計調査(以下、住調)」の数値だ。この調査は5年ごとに行われており、最新の2018年の調査では、全国の総住宅数約6240万戸のうち約849万戸、実に13.6%が空き家とされている。人口が集中している東京都でも、総住宅数約767万戸のうち、10%を超える80万戸以上が空き家だという。

 しかし、首都圏など大都市に住む読者の方は少し考えてみてほしい。住んでいるマンションの郵便受けを見て、10戸に1戸が空き家になっているだろうか? 戸建てに住んでいる人なら、近所の10軒に1軒が空き家だと実感できているだろうか。

 不動産にまつわる様々なデータを読み解く本連載、今回はこの空き家問題の真実に迫ってみたい。

自治体の調査では半分以下の数値に

 空き家率について、実は住調とは全く異なる調査結果も存在している。全国数百の自治体が独自に調査して公表している空き家実態調査報告書だ。東京都の数値は以下のようになっている。

・東京都豊島区(12年):空き家率1.6%(08年住調では12.9%)
・東京都北区(11年):空き家率5.6%(08年住調では10.3%)
・東京都杉並区(13年):空き家率0.37%(ただし、アパート等では全戸空き室の場合。08年住調の戸建て空き家率は5.8%)
・東京都三鷹市(13年):空き家率2.15%(ただし、集合住宅は除外。08年住調の戸建て空き家率は5.3%)
・東京都青梅市(13年):空き家率3.4%(ただし、アパート等では全戸空き室の場合。08年住調の戸建て空き家率は5.2%)

 いずれも同時期の住調と比べると、かなり低い値にとどまっている。これらの空き家実態調査は11~13年と調査時期が少し古いが、最近の調査でも傾向は変わらない。例えば、三鷹市は13年調査のあと18年にも空き家実態調査の結果を発表しているが、空き家率は13年の2.15%から18年には2.08%と低下している。また、18年の東京都世田谷区の「空家等実態調査報告書」には、空き家数はわずか966棟と記載されている。共同住宅は全戸が空き室の場合のみカウントしているので、これは事実上戸建て住宅の空き家数。世田谷区の戸建てはおよそ11.3万戸なので、比率は0.88%ということになる。これに対して、同じ18年の住調では、世田谷区の空き家が5万戸もあることになっている。

 どうしてここまで大きな差が出てしまうのか。そして、どちらの数値が正確な状況を指し示しているのだろうか。紹介した2つの調査結果に加えて、国土交通省が5年ごとに行う「空家実態調査(19年からは『空き家所有者実態調査』)」のデータを比較検討してみた結果、全国に800万戸もの空き家が存在する可能性はほぼないと筆者は判断する。

空き家は“見た目”で判断していた!?

 住調の数値が過大だと考えられるのは、その調査方法にある。「空き家などの居住世帯のない住宅については、調査員が外観等から判断することにより、調査項目の一部について調査した」とされており、曖昧な判断基準によって空き家がカウントされている可能性が高いのだ。実際、都心のタワーマンションなどではオートロックで中に入ることができず、外観から空き家かどうかを判断できるとはとても思えない。そして、昨今は様々な調査で調査票の未回収率の高さが問題となっており、住調でも未回収の場合が空き家として判断されている可能性がある。