「住めば都」で起きる地方と都会の分断

 「住めば都」とよく言われるが、誰でもそこに住み続ければその場所を好きになる、という単純な話ではない。住めば都という言葉には、「人は結局、自分が気に入った場所に落ち着く」というニュアンスが含まれている。実際、人口移動の状況を調べてみると、以下のような興味深い傾向が浮かび上がる。

  • 地方で生まれ育った若者のうち一定数は、都市を目指す
  • 地方から都市に来た若者の一部は、出身地にUターンしていく
  • 都市で生まれた人は、地方へはあまり行かない

 住みここちランキングで大都市が圧倒的に高く評価されており、自治体ランキングの上位を大都市とその周辺部が独占していることからも、生活利便性、適度な距離感のある人間関係とともに、様々な出会いやチャンスが存在している大都市が多くの人を引きつけていることが分かる。

<span class="fontBold">宗健(そう・たけし)</span><br />1965年北九州市生まれ。87年に九州工業大学工学部を卒業してリクルートに入社。住宅情報サイト・R25式モバイルの編集長などを経て、2006年に家賃債務保証事業を手掛けるリクルートフォレントインシュア(現・オリコフォレントインシュア)を設立し、代表取締役社長に就任。12年にリクルート住まい研究所所長。18年7月より大東建託賃貸未来研究所の所長に就任。19年からは麗澤大学の客員准教授も務める
宗健(そう・たけし)
1965年北九州市生まれ。87年に九州工業大学工学部を卒業してリクルートに入社。住宅情報サイト・R25式モバイルの編集長などを経て、2006年に家賃債務保証事業を手掛けるリクルートフォレントインシュア(現・オリコフォレントインシュア)を設立し、代表取締役社長に就任。12年にリクルート住まい研究所所長。18年7月より大東建託賃貸未来研究所の所長に就任。19年からは麗澤大学の客員准教授も務める

 こうした人口移動の状況と住みここちの評価から考えると、住めば都になる構造が見えてくる。

  • 地方の若者のうち、不満を強く感じている場合は都会に出て来る(残った人たちは比較的不満が少ない=その場所を気に入っている人たち)
  • 地方から都会に出てきた若者のうち一定数は、「ちょっと違った。やっぱり田舎の方がいいや」と思ってUターンしていく。残った人の多くは「やっぱり都会はいいなあ」と思っている
  • 都市で生まれ育った人の多くは、住みやすくチャンスも多いと思っていて、そのまま都会にいる
  • 都会で生まれ育った人のなかのごく一部の人たちが、「都会は住みにくい」と思って、地方へ移住していく

 こうして、多くの人は自分に合った場所に落ち着いていく。これが住めば都の構造である。地方に住む人が「都会は人間関係も希薄だし、ゴミゴミして暮らす気になれないなあ」と言うのは、地方の濃密な人間関係を心地よいと思っているからである。一方、都会に暮らす人の「田舎は、お店もないし刺激も少ないからなあ」という意見は、都会の雑然さを気に入っているからだ。

 つまり価値観の相違であり、お互いを理解できない、大きな分断が生まれる原因になっている。そして、この分断は時として、都会から田舎へ移住した人に牙をむくことがある。特に人と人の関係性が田舎と都会では全く違うため、都会で生まれ育った人には田舎の濃密な人間関係が理解できないこともあるし、田舎の人間関係しか知らない人々からみれば、都会から来た人が適度な距離感だと思っている人間関係への感覚が、トラブルを生むことになる。

 地方自治体の多くは、都市からの移住の促進を政策に掲げているが、こうした住民の意識の差に対して十分な説明を行い、トラブル発生時に有効な仲裁が行われているとは限らない。そして、受け入れ側には、新しい住民を適度な距離感で受け入れる雰囲気があることが必要になるが、そうした意識改革を住民に求めることは難しいだろう。“田舎暮らし”に夢はあるが、誰もが、どこに行っても、住めば都になるわけではないのだ。

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