新型コロナウイルスの感染拡大で一気に普及したテレワークもあって、田舎暮らしが注目されている。実際、軽井沢や那須、伊豆・箱根といった昔からの別荘地だけではなく、房総や湘南の物件への問い合わせも増えているらしい。また、東京都の人口が減少していることも話題となっており、東京一極集中が是正されるきっかけになると期待されているようである。

 東京一極集中の是正が叫ばれ、田舎暮らしへの関心が高まっている背景には、「住みづらい東京」「仕事があるから仕方なく暮らしている大都会」といったネガティブなイメージがあるようだ。筆者は2018年から大同建託賃貸未来研究所長として、現在住んでいる自治体についての満足度を評価してもらう大規模調査を企画・設計し、調査結果を「街の住みここちランキング」として公表している。20年は3~4月に実施し、35万4521人から回答を得た。その結果を見ると、意外な実態が浮かび上がる。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 自治体ランキングの1位は大阪のベッドタウンとして発展が進む奈良県王寺町だったが、僅差の2位は東京都中央区、3位は大阪市天王寺区と、都心の自治体が続く。4位は名古屋市に隣接する愛知県長久手市、5位は東京都文京区、6位は福岡市中央区だった。以下、7位は大阪府箕面市、8位は名古屋市昭和区、9位は福岡県新宮町、10位は兵庫県芦屋市と、大都市と周辺自治体が上位を独占している。

 ランキング中にある町村を数えてみると、100位以内には12町村、200位以内に29町村、300位以内に46町村と、かなり少ない。そして町村とはいっても多くが大都市近郊であり、100位以内で、いわゆる田舎暮らしをイメージできるのは、34位の熊本県菊陽町、37位の神奈川県葉山町、64位の沖縄県中城(なかぐすく)村くらいしかない。

 また、都道府県ランキングの1位は東京都で、偏差値71.4。偏差値66.4で2位だった兵庫県を大きく引き離している。3位が偏差値65.5の福岡県、4位は神奈川県、5位は大阪府と、大都市を抱える都府県が上位を独占している。

 東京都はどこが評価されているのだろうか。因子別の順位を見てみると、交通利便性、生活利便性、イメージ、親しみやすさ、行政サービスの5因子で1位となった。一方、物価は24位、静かさ治安は43位、自然観光は46位と低い。それでも8因子中5因子で1位という圧倒的に高い評価を獲得している。東京都は物価が高く自然もなく住みにくいという一般的な評価は一面を見ているにすぎず、確かに物価は安くないし、自然もなく、静かでもないが、それを上回るだけの暮らしやすさ、楽しさを東京は持っていることになる。

 「住まいは狭くて高いではないか」という指摘もあるかもしれないが、建物満足度で東京都は全国2位の評価を得ている(建物評価ランキングは未公表)。そして、これも公表していないが、主観的幸福度でも東京都は全国5位となっている。

 こうした結果を素直に解釈すれば、「東京は住まいが狭くて高く、高い物価や人の多さなどもあって住みづらい」というイメージは実態とは乖離(かいり)しており、実は東京は住みやすく、幸せを感じる街だと言えるのである。

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