英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが一時TOB(株式公開買い付け)による非上場化を東芝に提案、混乱のさなかに車谷暢昭社長兼CEOが辞任するなど、注目を集めた一連の東芝問題。4月26日にも東芝株主のシンガポールの資産運用会社、3Dインベストメント・パートナーズが株主構成の再検討を促す書簡を東芝に送ったことが明らかになった。ファンドが次々と出現する買収提案劇の裏側で、日本の法制度の不備を指摘する声も出ている。「日本はファンドがやりたい放題の状況」。こう指摘する早稲田大学の上村達男名誉教授に話を聞いた。

上村達男[うえむら・たつお]氏
1971年早稲田大学法学部卒、77年同大学院法学研究科博士課程修了。後に法学博士学位取得。専修大学法学部教授、立教大学法学部教授などを経て、97年から早稲田大学法学部教授。19年に定年退職し、名誉教授。法務省法制審議会会社法制部会委員、東京証券取引所自主規制委員会委員などを歴任。 東京都出身。

すべてファンドの筋書き通り

英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが一時TOB(株式公開買い付け)による非上場化を東芝に提案し、混乱の中で車谷暢昭社長が辞任しました。一連の動きをどうみていますか?

上村達男・早稲田大学名誉教授(以下、上村氏):車谷前社長の古巣であるCVCによる東芝への非上場化の提案が「奇策を出した」との趣旨の報道もありましたが、実にノーテンキな話ですね。そもそも情報の起点がファンド側になっていますから。

 今回の問題は、ファンドやアクティビスト(物言う株主)が想定した狙い通りに物事が進んだのだと思います。東芝は、2017年12月にファンドなど約60社の海外投資家を引き受け手として約6000億円を増資し、これらの投資家が株主となりました。その半年後の18年6月に約7000億円の自社株買いを行い、株価が一時上昇して、ファンド側に報いました。

 東芝の半導体子会社「東芝メモリ」の売却益である虎の子の1兆円のうち7000億円を事業展開のためではなく株主に報いることに使ってしまったのですが、自社株買いに報いることに事前の約束ないし暗黙の了解があったとすると、全体が、重罪である偽計取引にも見えてきます。車谷氏は会社の事業目的をおろそかにしてファンドに報いたとして株主代表訴訟の被告になっても不思議はありません。いずれにせよ、CVCの日本代表だった車谷氏を東芝のトップに据えた効果が、ファンドの狙い通りに発揮されたのではないかと思います。

4月14日に東芝の社長兼CEOを退任した車谷暢昭氏(写真:共同通信)

その車谷氏は辞任しました。

上村氏:ファンドとの対立を解消するために社長が自ら身を引き、独立性の高い取締役会がそれを受け入れ、CVCによる買収提案を検討することで事態を打開した、とか、したがって辞任は必然的であり、「東芝のガバナンス(企業統治)が機能した」などと報じられていますが、随分のんびりした話ですね。

 かつての村上ファンドによるニッポン放送株や阪神電鉄株の買い占めでも分かるように、第三者にも株式の買い集めをそそのかし、株価が高くなったところでその第三者を裏切って売り抜くことや、高値によるTOBに応じることで巨額の利益を得るのは、ファンドの常とう手段です。

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