株主利益の最大化に偏った「株主資本主義」を見直す動きが世界で広がっている。会社は株主だけではなく、他のステークホルダー(利害関係者)も重視しなければならないという見方だ。関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)は「潮目が変わった」と述べ、東レの日覺昭廣社長は日本のガバナンス制度の問題点を指摘した。
公益資本主義的な考えを実践し、「100人いたら100通りの働き方があってよい」と従業員のダイバーシティー(多様性)を重視するソフトウエア開発のサイボウズは次の株主総会で、定款に企業理念を盛り込む予定だ。青野慶久社長は、米巨大IT企業が国よりも巨大な力を持っていると指摘、一人ひとりの考えを尊重する社会を目指し、株主、従業員などカテゴリーでくくること自体を見直すべきだと訴える。

1994年大阪大学工学部卒業、松下電工(現パナソニック)入社。97年、2人の同僚とサイボウズを設立し、副社長に。2005年4月から現職。自身も育児休暇を3回取得するなど、会社員の働き方改革を積極的に進めている。愛媛県出身。49歳。
世界では、株主資本主義を見直す「ステークホルダー資本主義」「公益資本主義」という考えが台頭しています。どう見ていますか。
青野慶久・サイボウズ社長(以下、青野氏):私が注目しているのは、GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)と呼ばれる米IT企業が巨大化していることです。GAFAMの時価総額は、日本の東証1部上場企業の合計よりも大きい。これはすごいことです。今でもGAFAMの勢いは止まっておらず、国家よりも強くなっているんじゃないかということが現実的に起きています。米国や日本を見ても分かるように国家運営がうまくいっているかといえば、分断と対立の激化で怪しくなっています。
巨大IT企業が国家よりも力を持つ時代になる、と。
青野氏:GAFAMというゴジラが地球に登場したような感じです。国家を超えるゴジラが生まれた時代に我々はどうやって暮らすかを考えなければなりません。もはや今の資本主義自体が正しいのかなどを考えるのはどうでもいいぐらいです。スーパーIT企業が台頭し、それが社会インフラになっています。恐ろしいことです。
こうした時代に、日本の法制度はどうあるべきでしょうか。
青野氏:巨大IT企業によって国家間、企業間という概念が破壊される中、会社のあり方もより多様になるべきです。これまでは会社をつくり、利益上げて、それを配当する。それが前提でした。しかし今、ファンドなど資金力のある存在が株主として企業に圧力をかけ、経営に多大な影響を与えています。私自身は、株主還元を最大の目的とする考え方も一理あると思いますし、それではダメという考えも一理あると思っています。どちらの考えも尊重し、共存できる社会を目指すべきでしょう。重要なのは、その意思をしっかり表明することです。こうした仕組みは日本では十分に整っていないと感じています。
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