株主利益の最大化に偏った「株主資本主義」を見直す動きが世界で広がっている。会社は株主だけではなく、他のステークホルダー(利害関係者)も重視しなければならないという見方だ。関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)は「潮目が変わった」と述べている

 公益資本主義の考えを実践している会社もある。その代表格である東レはこの10年で売り上げを約1兆円増やした。長期視点に立って「企業の価値は社会貢献」とする日本的経営を進め、炭素繊維の新規事業や海外事業を伸長させた。企業経営の研究にも熱心な日覺昭廣社長は、日本のコーポレートガバナンス・コードについて「従業員重視」に改定した英国を参考にすべきだと指摘。企業価値、株主の再定義の必要性を訴える。

	<span class="fontBold">日覺 昭廣(にっかく・あきひろ)氏</span><br> 1973年東京大学大学院工学研究科修士課程修了後、東レ入社。常務、専務、副社長などを経て、2010年から社長。米国、フランスの子会社経営なども経験した。兵庫県出身。72歳。(写真:北山宏一、以下同)
日覺 昭廣(にっかく・あきひろ)氏
1973年東京大学大学院工学研究科修士課程修了後、東レ入社。常務、専務、副社長などを経て、2010年から社長。米国、フランスの子会社経営なども経験した。兵庫県出身。72歳。(写真:北山宏一、以下同)

世界では「ステークホルダー資本主義」「公益資本主義」の考えが台頭しています。東レは率先して公益資本主義的な考えで経営してきました。

日覺昭廣・東レ社長(以下・日覺氏):公益資本主義という考え方は新しくありません。特に日本では「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」に類するような形で企業は経営をしてきましたし、欧米でも今の「金融資本主義」の前は同様でした。例えば、米デュポンでは、長期雇用し、親も子も代々デュポンで働く人も多く、そうした考えは当たり前でした。それが1970年以降、新自由主義的な考え方によって、企業はマネーゲームに翻弄されています。ほんの一握りの人がカネで企業を支配し、企業はガバナンス(企業統治)をどうするのかなど、株主目線での対応を迫られているのが現実です。

今後そうした考えは変わるのでしょうか。

日覺氏:少しずつ変わっていると思います。米国でもベネフィット・コーポレーション(B企業)という認証制度があり、企業は社会貢献しなければならないとの考えが広まっています。この認証を受けた企業は、短期目線のファンドが利益を配当に回すよう要求しても、利益は社会や環境に配慮するために利用するとの理由で断ることができます。米国の34州で法制化され、5000社ほどが認証を受けています。英国では、コーポレートガバナンス・コードで「従業員重視」の方向に改定され、2019年1月以降から適用されています。

 世界は、我々日本人が長年大切にしてきた考え方にようやく追いついたと感じています。一番憂慮しているのは、日本は今、欧米の古い考えを模範として突き進んでいることです。米ハーバード大学など世界では、公益資本主義について猛勉強している。彼らは新しいルールをつくろうと思っているからです。そのルールがつくられると、日本はそれをまねする。おそらく5年先、米国から公益資本主義を導入することになるでしょう。そうなると、日本としては恥ずかしい。日本人の主体性のなさが問題です。

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