旧三洋電機の白物家電事業や日の丸液晶ジャパンディスプレイ(JDI)の立て直しに奮闘した伊藤嘉明氏の経験を通し、働き方と向き合うシリーズ「プロ経営者、伊藤嘉明の自戒」。読者からの質問に答えるインタビュー編の前編では、主体性を持って現状を受け入れることの大切さを指摘してもらいました。

 後編の質問者は20代の女性。グローバル経済の大波にもまれ、あらゆる産業が米中のテックジャイアントにのみ込まれていく状況に、日本企業はどう対応すればいいのか、私たちはどう向き合えばいいのか、という迫り来る課題について、伊藤氏に考えてもらいました。

 ぜひ、皆さんもご意見をお寄せください。

(聞き手:北西厚一)

▼質問
相談者:女性 29歳 会社員(企業規模=1000~4999人)
 ニッチな市場を発見して盛り返しても、それは一時的で、最終的には国際的無国籍企業のお金の力でねじ伏せられてしまう気がします。納税せず現地雇用もしない国際無国籍企業は、とりついた社会を焼き畑農業のように壊滅してしまうと思います。ローカル企業がたたき潰されて地域ニーズは吸い上げられず、サービスの質も下がるように思われます。このような悲観的なシナリオを回避できる方法が分かりません。
 日本企業が生き残っても、国際的無国籍企業の焼き畑式に巻き込まれれば、日本社会にはなんら貢献しません。貢献しないなら、名前だけの日本企業であろうがGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)であろうが、どうでもいいように思います。それでも焼き畑式の中で生き残るべきでしょうか。それとも、他に良いビジョンがあるでしょうか。経営者予備軍や労働者に働く意欲、ビジョンがなければどうにもならないように思われます。
 基軸産業が消滅し、盛り返す力もないように見える現状をどう捉えるといいのか。情緒的なことを言っても仕方ないのですが、社会の空気も経済活動に大きな影響を与えているように思われます。

伊藤嘉明(いとう・よしあき)
1969年タイ・バンコク生まれ。米サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得し、日本コカ・コーラ、米デル、レノボグループ米国本社などで勤務。その後、アディダスジャパン上席執行役員バイスプレジデント兼営業統括本部長、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント日本・北アジア代表を経て、2014年ハイアールアジアグループ総裁に就任。16年に経営コンサルティングの個人事務所を設立。17年から2年間はジャパンディスプレイの常務執行役員として経営に参画した。(写真:吉成大輔、以下同)

前回は、上司や同僚にどう刺激を与え、会社の文化や風土を変えていくかについて、伊藤さんに効果的な方法などを教えてもらいました。今回は、日本の会社はどうあるべきか、我々は時代にどう対峙すべきかという、より大きなテーマです。

伊藤嘉明氏(以下、伊藤氏):ご質問ありがとうございます。非常に直接的に、世界の現状を捉えていると思います。グーグル、アップルなどGAFAM(M=マイクロソフト)の躍進には目を見張るものがあります。コロナ対策による金余りもあるのでしょうが、株価も考えられないくらい跳ね上がっている。5社の時価総額合計は日本の(東証1部の)全上場会社を超えていますね。

 なぜGAFAMはこれほどまでに巨大になったのでしょうか。例えば、アップルは1980年代、世界シェア1割以下のマニア向けパソコンメーカーでした。りんごのロゴに憧れて集まったエンジニアの会社がいまや、音楽も映画も扱っています。

 劇的な進化が可能になったのは優秀な人材を集めたからです。彼らは何をしたのか。これは日本企業に決定的に欠落していることですが、適正な評価制度を整備したのです。

 私が事業面でサポートした日本のある上場会社も、デジタル人材を確保するため、米シリコンバレーで採用活動をしていました。用意していたのは1人最高15万ドル。集まったのは最先端にいるとは思えない50代のエンジニアでした。一方、中国家電大手の友人に聞くと、平均30万ドルを準備し、20代後半を採用していた。担当役員にはもっと出さないと人は来ない、と指摘したのですが、驚きの答えが返ってきました。

 「我々よりも高いじゃないですか」

 当たり前です。プロ野球やサッカーの監督は自分よりも高い年収で能力の高い選手を集めます。プロ意識を持つと見え方が違ってくるのは当然です。世界の現状を見ず、ついつい自分が育ってきた枠組みの中で物事を捉えてしまう。グローバル社会における日本企業の問題ですね。

 今、怖いことが起こっています。

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