連載では4回にわたってプロ経営者、伊藤嘉明氏の経験を紹介し、その自戒から得た学びを通して、仕事との向き合い方について考えてきました。米デル、アディダスジャパンなど様々な業界で「負け組」を「勝ち組」に引き上げ、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)では記録的なヒットを飛ばしてV字回復を遂げた伊藤氏。ただ、その後に取り組んだ旧三洋電機の白物家電事業、日の丸液晶ジャパンディスプレイ(JDI)の再建は、組織や事業のテコ入れで一定の成果を上げたものの、社内の抵抗に遭って不完全燃焼のままに会社を離れることになりました。

 今回は読者の皆さんからいただいた質問や悩みに、伊藤氏に直接答えてもらいます。伊藤氏は、急変する時代の変化に向き合えない日本企業や社員の本質をどのように捉えているのか。「生声」でお伝えします。

 いわゆる「大企業病」を克服するために、経営者やチームメンバーの意識を変えるにはどうしたらいいか、皆さんもぜひ、ご意見をお寄せください。

(聞き手:北西厚一)

▼質問1
相談者:男性 37歳 会社員(企業規模=1000〜4999人)
既存事業に取り組む管理職です。会社の将来に不安があり、相談いたします。当社は何度も新規事業を立ち上げようとしているのですが、投資の蓋然性やリスクへの極度の躊躇(ちゅうちょ)から適切なタイミングで買収や設備投資ができず、結果的に2〜3年での撤退を繰り返しています。新規事業に人・モノ・カネを振り向けてもうまくいきません。経営陣は批評や指摘をするだけで、主観的に事業を推進せず、肝いりの事業もない状況です。経営陣が適切にリスクを取って取り組む文化や習慣を根付かせるため、管理職レベルはどのような提言、アクションをすべきでしょうか。

▼質問2
男性 45歳 会社員(企業規模=100〜999人)
複数の日系企業で経営企画メンバーとして経営改革や買収などのプロジェクトに関与してきました。会社の価値向上や将来の成長基盤ではなく、自分たちの体裁、名誉、派閥の利得などを優先し、本来直接協議すべきキーパーソンたちは対決を避け、事務方に言いたいことを言って疲弊させる、という現象を目の当たりにしてきました。それを私たちはU字管現象と皮肉を込めて揶揄(やゆ)していました。伊藤様も同じ体験をされているかもしれません。自分たちのメンツ、利得ばかりを重んじて、外部環境の変化に対応できず、プロダクトアウトの独善的な発想で、顧客ニーズに合わない製品、サービスを出し続けたことが日本企業の現在の窮状の原因と思いますが、伊藤様のご意見をお聞きしたく思います。

▼質問3
男性 40歳 会社員(1000〜4999人規模)
慢性的な赤字部署で、存続が危ぶまれる状態にもかかわらず、メンバーに危機感がありません。新たな取り組みへの意識は低く、目の前の仕事をこなすのみです。過去60年間の諸先輩の実績を基とするアフターサービスが事業の軸ですが、レガシーを食いつぶしている状況です。社内では自社の弱みは「消極的」という認識で一致していますが、仕事のスタイルを変えようとする人は現れません。記事にあったデル社のミートグラインダーほどではないのですが、赤字で人数は減らされたため多忙です。会社は人材の育成意識に乏しく、自ら技術を勉強したり、他社の技術に興味を持ったりする人も稀有(けう)です。危機感のないメンバーのモチベーションはどのように高めればいいのでしょうか。

▼質問4
男性 51歳 会社員(100〜999人規模)
記事にあるように「おのおのが現状を認識することが出発点」なのはいいとして、メンバーに対して現状を正しく認識させることも、経営者の役目であると思います。具体的な方法について、いい案があればご教示ください。

<span class="fontBold">伊藤嘉明(いとう・よしあき)</span><br> 1969年タイ・バンコク生まれ。米サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得し、日本コカ・コーラ、米デル、レノボグループ米国本社などで勤務。その後、アディダスジャパン上席執行役員バイスプレジデント兼営業統括本部長、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント日本・北アジア代表を経て、2014年ハイアールアジアグループ総裁に就任。16年に経営コンサルティングの個人事務所を設立。17年から2年間はジャパンディスプレイの常務執行役員として経営に参画した。(写真:吉成大輔、以下同)
伊藤嘉明(いとう・よしあき)
1969年タイ・バンコク生まれ。米サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得し、日本コカ・コーラ、米デル、レノボグループ米国本社などで勤務。その後、アディダスジャパン上席執行役員バイスプレジデント兼営業統括本部長、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント日本・北アジア代表を経て、2014年ハイアールアジアグループ総裁に就任。16年に経営コンサルティングの個人事務所を設立。17年から2年間はジャパンディスプレイの常務執行役員として経営に参画した。(写真:吉成大輔、以下同)

伊藤嘉明氏:ご質問をいただき、ありがとうございます。ミドルの皆さんの危機感が伝わってきますね。まず、お伝えしたいのは、積極的に思いを発信することの大切さです。機会は多くの人に平等にあるのですが、それを生かせる人と、生かせない人がいる。自ら行動を起こす、という観点で、皆さんのような方々こそが、周囲に影響を与えていく人材です。

 1〜4の質問の内容を大きく見れば、連載第3回でも取り上げた、いわゆる「大企業病」を克服するために、経営陣やチームメンバーの意識を変えるために何をすべきか、ということだと捉えています。ハイアールアジア、JDIで学んだことも勘案し、現時点での私の意見を述べたいと思います。

 先日、ある企業で「意識改革とイノベーション」というテーマで講演をしました。創立記念日で会社は休み。有志のような感じで50人ほどが集まり、有意義な意見交換もできました。外部から識者を呼んでスピーチをしてもらう。これが、社内に刺激を与える最も効果的な方法だと思います。

 なぜなら、社内の人間がどれだけ声を上げようとも、年功序列の文化がある限り、年長者の反応は期待できないからです。流動性のない会社は特にそうです。年上の人は知識量や経験が圧倒的に上だと信じ、常に自分の方が賢いと思ってしまうのです。

 新しい提案が下からあると「それは会社に合わない」といったことを必ず言うベテラン社員がいますね。そういうレベルで話が止まってはもったいないので、まずは外部の影響力のある人に地ならしをしてもらうべきです。それで気づきを与えられれば、しめたものです。

 海外の事例を提案するというのも効果的な手法です。例えば、テック大手のGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)にはこういう社内制度があるといった事例を紹介する。ただ、これは何度も繰り返す必要があるので、根気の勝負になりますよ。

続きを読む 2/4 変化を「許容」する力がない

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