彼に任せれば、何とかしてくれる――。周囲にそう思わせ、いくつものグローバル企業で結果を出してきた「プロ経営者」、伊藤嘉明氏(51)。中国の家電大手ハイアールに買収された旧三洋電機の家電事業の再建にハイアールアジアグループ総裁兼CEO(最高経営責任者)として取り組み、不振に陥った電機業界の“日の丸液晶”事業を集約したジャパンディスプレイ(JDI)からは新規事業開拓の役員として招かれた。

 いずれの会社でも与えられたミッションは果たしたという自負がある。だが、経営の最前線から遠ざかって2年が経ち、残っているのは「会社を本当に変えられたのか」という複雑な思いだ。今は経営コンサルタントとして活動しながら、日本を元気にすることを目指すSNSコミュニティー「300Xコミュニティー」を主宰し、約1700人にもなる志あるビジネスパーソンと連携する。

 伊藤氏はタイで生まれ育ち、米国の大学で教育を受けた。大学卒業後、日本の大企業に就職を試みるが失敗。外資を渡り歩き、日本企業の組織文化とは無縁の環境でキャリアを積んで、活路を切り開いてきた。

 そんな“異分子”の伊藤氏は、会社組織の立て直しに貢献しようとする中で、何を変え、何を変えられなかったのか。JDIの役員を退いてからも「プロ経営者」として声がかかる機会は多いが、よって立つ新たな「軸」はまだ模索中だ。

 コロナ禍では多くのビジネスパーソンが働き方や仕事の変化に直面し、一度立ち止まって、自らの価値を再定義する必要に迫られている。メンバーシップ型の雇用に守られてきた日本的な企業文化は薄れる一方、世間ではSNSなどの広がりによって同調圧力が強まっている。ただ流されるだけでは生きづらい世の中が目の前にある。

 伊藤氏の自戒を通じ、我々が今、すべきことを考えていく。

 伊藤嘉明氏が主宰するSNSコミュニティー「300Xコミュニティー」のメンバーが、昨年7月の創設から半年で1700人を超えた。

 「予測不能な時代だからこそ、互いに学び、切磋琢磨(せっさたくま)できる場をつくりませんか?」

 コロナ禍の中で発した伊藤氏のメッセージに共鳴する人らが参加している。

 その名の通り、当初は300人の集結を目指していた。だが、米バブソン大学准教授の山川恭弘氏、独立研究家の山口周氏などの“著名人”から、金融業界やコンサルタント業界、スポーツ界など幅広い領域で手が上がり、瞬く間に大きなコミュニティーとなった。

 このコミュニティーで何ができるのかという期待感については、2020年9月の日経ビジネスの特集で記した通りだ。目的はあくまでも、志を持つ人が歩むべき道を自ら見つけ、一歩前へと踏み出すこと。伊藤氏は東京・六本木に、メンバーがリアルの場で交流できるシェアオフィスも用意した。

 「変わりたい人、成長したい人をサポートしたい」――。

 そう聞くと、伊藤氏がこれまでの経営者としての経験を生かし、若手変革者の成長を支援する場を運営していると思われるかもしれない。だが、「変わらなければならない」と思っているのは、伊藤氏自身も同じだ。伊藤氏こそ、自らの意思を通わせることのできる“仲間”を必要としていた。

 「プロ経営者」といえば聞こえはいい。しかし、伊藤氏は志半ばで、経営の最前線から遠ざかった。経営者として脂が乗り切る50歳を目前にして挫折感を味わった。

伊藤嘉明(いとう・よしあき)
1969年タイ・バンコク生まれ。米サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得し、日本コカ・コーラ、米デル、レノボグループ米国本社などで勤務。その後、アディダスジャパン上席執行役員バイスプレジデント兼営業統括本部長、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント日本・北アジア代表を経て、2014年ハイアールアジアグループ総裁に就任。16年に経営コンサルティングの個人事務所を設立。17年から2年間はジャパンディスプレイの常務執行役員として経営に参画した。(写真:吉成大輔)

 伊藤氏はハイアールアジアグループの総裁兼CEO(最高経営責任者)として、旧三洋電機の家電事業の立て直しに奔走したことで知られる。2014〜16年のことだ。組織構成を根本的に見直すなど徹底した改革により、15年連続で赤字だった事業を就任初年度に黒字化した。「異端の経営者」と呼ばれた。

 ただ、伊藤氏のハイアールアジア総裁としてのキャリアは「社内の敵」と対峙する形で終焉(しゅうえん)した。病気で療養していた前任CEOが復帰するという事情はあったが、変わることを良しとしない古参の社員らにそっぽを向かれた。17年から常務執行役員として赴任したJDIでも、プロパー役員と折り合わず、不完全燃焼で会社を離れた。

 いずれの組織も、一時は世界を席巻した日本のエレクトロニクス企業の一角。伊藤氏の直接的なミッションは業績改善と新規事業の発掘だったが、思いの上では、かつてのエリート集団を再び世界に通用する「戦う集団」にすることを目指した。企業と人材の再生を求めたのだ。だが、そのために採った合理的な実力主義への反発は強かった。高度経済成長期に出来上がった日本の「サラリーマン文化」を変える難しさは想像以上だった。

続きを読む 2/2 タイと日本、2つの国で「よそ者」となる

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