マネジメントの概念を確立し、「経営学の父」として知られる、ピーター・ドラッカー。そんなドラッカーの教えを約20年間実践し、成果を上げている経営者の集団がある。京都府内の中小製造業約40社で構成する、京都試作ネットだ。取り組みを追うと、中小企業によるイノベーション創出のヒントが見えてきた。

京都試作ネットに加盟する最上インクス(京都市)の工場。京都試作ネット代表理事の鈴木滋朗氏は、同社の社長でもある(写真2点:宮田 昌彦)
京都試作ネットに加盟する最上インクス(京都市)の工場。京都試作ネット代表理事の鈴木滋朗氏は、同社の社長でもある(写真2点:宮田 昌彦)

 京都試作ネットの源流は、1990年代後半に始まった町工場の「親父(おやじ)」10人の勉強会。当時、大手メーカーによる生産拠点の海外移転が進み、町工場は厳しい環境に置かれていた。

 このままでは、いずれ淘汰されてしまう。「下請けから脱却するにはどうしたらいいか」。悩みながら議論していると、ドラッカーのある経営理論にピンときた。「企業の目的は、顧客の創造」。人々が持つ潜在的なニーズを捉えた商品を開発し、新市場を作り出すことが企業活動の目的という意味だ。

 だが、日本の中小製造業が得意とするのは、発注元から依頼されたものを図面通りに正確に安く作ること。長年下請けに甘んじていたことで、自ら商品を生み出すことは不得手なことが多い。そうした状況を打開しようと、2001年に発足したのが京都試作ネットだ。

 京都試作ネットが窓口となり、大手メーカーなどから仕事を受注。案件ごとに、会員企業のいずれかが担当する仕組みだ。ポイントは、組織名の通り「試作」に特化すること。いくら案件をさばいても、量産の仕事を続けていれば、新興国が安価な労働力を武器に台頭する中で勝ち目はない。製品の開発・製造の上流過程である試作を手がけることで、最先端のノウハウを吸収しようと考えた。

 試作を手がける上では、ドラッカーのある言葉を重視している。「変な客こそ、本命」。ドラッカーは「予期せぬ客がイノベーションを背負ってくる」と説く。例えば、当初は科学計算用として開発されたコンピューター。米IBMは技術的には先行メーカーに後れを取っていたが、事務用としての需要に気づき、真っ先に開拓したことで成長した。

 会員企業は京都試作ネットに所属することで、本業とは異なる分野の案件に触れるチャンスが増える。京都試作ネットも会員企業に「こぼれ球を拾う」ことを奨励している。これまで自社で手がけたことのない業界の案件にあえて取り組むことで、「予期せぬ成功」(ドラッカー)を生む仕組みだ。

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