フロントエンジン・リヤドライブ(FR)のレイアウトを可能な限り低重心にしようとすると、ドライバーはエンジンとデフ(ディファレンシャルギア。駆動輪── このクルマの場合は後輪 ── の旋回時の左右の回転差を吸収する役割を持つ)の間に挟まれる形になる。

 脚は前に投げ出した形にしないと低く座れない。だから床板に直接置かれたシート座面のクッションの上に、腹筋で体を起こした時の態勢で座り、その膝の横あたりからトランスミッションが始まって、くるぶしの横あたりから前にエンジンが置かれる。上体はどうかと言えば、座った状態でリヤフェンダーに肘が掛けられる。そういう距離感だ。デフの上にはガソリンタンクがある。

 つまり長いてんぴん棒の前にエンジン、後ろにデフとタンクを括り付けたようなレイアウトで、Z軸周りの慣性モーメントは当然大きい。ちなみにZ軸とは地面に対して垂直に立てられた軸のことだ。

 だからスーパーセブンの基本レイアウトをより乱暴に言えば、重い物は前端と後端にあり、真ん中は人間を収めるだけで精いっぱい。ミッドシップが重心位置に重量物をまとめているのと正反対のレイアウトである。素養としてはダルなハンドリングになるはずのものだ。

 そんな素養のものがどうして、1957年のデビューから65年も経て、いまだに一流スポーツカーだとされているのか? 実はそれこそ筆者がスーパーセブンから学んだことであり、基準のキモである。

 Z軸慣性モーメントが大きいレイアウトは、バットを長く持って振るのと同じで、回転させるのにより大きなエネルギーがいるからスピンし難い。だから動きが過敏にならない。車両姿勢の変化が引き延ばされたような動きになって分かりやすいし、対処がしやすい。

セブンは軽さのメリットを最大限引き出した

 ただし、そういうものになるためには条件があって、それは総重量が絶対的に軽く、ボディが小さいことだ。

 当時の輸入元のスペックはあまり当てにならないが、多分この筆者の乗っていたモデルは700キロ強というところだっただろう。しかもタイヤが車両の四隅ほぼいっぱいにあって、重量に対してタイヤの容量が大きい。重量分布的にはZ軸周りの慣性モーメントは大きいのだが、絶対重量としては小さく。タイヤの能力を考えれば、回すのも止めるのも余裕がある。そういう二面性がおそらくスーパーセブンの正体だと思う。

 こういうクルマを曲げる際の動きはおおむね次のように推移する。とりあえず前提はサーキットだ。

 ストレートエンドで強くブレーキを掛けると、車両が軽くタイヤ容量が大きいので、強烈に減速する。ここでブレーキを残したままステアリングを切ると、リヤタイヤがブレークするが、その動きは緩慢なので、ブレーキ踏力の調整で後輪の滑りをいかようにも調整できる。一般的なスポーツカーより制動距離が圧倒的に短い上に、ブレーキドリフトが鼻歌交じりで気楽に使える。

 旋回に入ると、エンジンの重みの恩恵で、フロントの接地感が安定している。だから加減速の影響でフロントの接地感が変化しにくい。ミッドシップだとこうはいかない。常に車両姿勢をコントロールして前荷重を掛け、フロントタイヤを効かせておかなくてはならない。しかし、そこでラインを変えるとか他の要素が割り込んで来て前荷重が抜けたら、一気にフロントが効かなくなる。つまりスイートスポットが小さいのだ。

 このフォード225E搭載モデルは、110馬力とエンジンは大して強力ではないので、よっぽどバカな踏み方をしない限り、前輪が後輪の駆動力に押し出されてアンダーステアを出す「プッシングアンダー」は起こさない。フロントタイヤのグリップを基準としながら、リヤのグリップ限界に合わせてアクセルの踏み込み量を決め、リヤが出過ぎたときのカウンターステアにだけ集中していれば、弱い慣性ドリフトが維持できる。

 さらによっぼどの高速コーナーでない限り、そこから万一スピンに陥っても、回り方がゆっくりな上、タイヤの容量が大きいのでまず90度以上は回らない。その間に速度が落ちてしまう。

 全体として何を言っているのかといえば、軽いクルマをダルに仕立てると、普通のクルマでは過敏で使いにくくなる領域を極めて楽に使える。いろんな条件で潰しが効き、ドライバーに寛容なハンドリングに仕上がるのである。

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