読者のみなさま、新年明けましておめでとうございます。昨年1年のご愛読に心より感謝を申し上げると共に、また1年みなさまの知的好奇心を少しでも刺激できる記事を書いていく所存です。よろしくお願いいたします。

 さて、改まった挨拶が終わったところで、文体をいつもの調子に切り替える。

 元旦掲載のこの記事、編集担当のY氏からは「読者の皆さんへのお年玉として、池田さんの“基準”になっているクルマについて書いてくれませんか」というオファーがあった。

 まあ自分自身も編集者なので言いたいことは分かる。表テーマは、「良い」とか「悪い」とか評価するに際して、基準となるクルマは何なのか、ということで、裏テーマは筆者の人物像とか評価の背景がうかがえるクルマ遍歴、あるいはクルマに対する嗜好を読み物に仕立ててみせろ、ということだと思う。

 筆者の嗜好はわりと分かりやすい。あんまりピークパワーは要らない。それよりもハンドリング優先で、低中速のトルクがある方が好み。

 つまり最高速とか、ゼロヨン的加速の評価ポイントが低く、同じく、絶対的な旋回加速度への要求も高くない。それよりも、直進時の修正舵の精度とか、交差点での速度で曲がろうとするときに横方向加速度の変化を連続した美麗なカーブで描けることが重要だ。それは運転の日常領域でいかに気持ちよく操作できるかということであり、あらゆる面でピークの絶対値よりも、リニアリティを大事にする考え方だ。

そのクルマ、「醤油差し」としてどうですか

 例えば、コインパーキングの踏み板を乗り越える際に、傾斜に当たって停止したところから、アクセルを踏み込んで斜面を登り始める際に、ちゃんとその抵抗が感じ取れること、言い換えれば、登坂の抵抗分アクセルペダルを余計に踏んだ実感があり、かつ必要以上に踏まされないこと。要するに勢いを付けたり、大きく踏み込んだりしないで、自分がコントロールしたい速度でしっかり上ること。つまり負荷が変化する状態での極低速の速度制御能力が備わっているかどうかだ。

 トルクが増える減るのタイミングに遅滞が発生しないことも大事で、そこがちゃんとできていないと、トルク発生の遅れによるドライバーの誤認操作が発生し、踏みすぎて踏み板を越えてオーバーランしそうになる。それはどばっと醤油が出てしまう醤油差しと同じで使いにくい。一滴垂らしたいなら一滴、刺身皿に出したいとか、生卵に加えたいなら、用心深く扱わなくても思った通りの量が無意識に出せる醤油差し。そういうものを望んでいる。

 だから踏み板を上るのに適切なアクセル開度が分かりやすく、かつ頂点を越え、アクセルを抜いたらスッとトルクが収まり、穏やかに速度が落ちることが重要だ。過給エンジンにはこのあたりが難しい。

 細かく分解して書くと以下のようになる。

・クリープで傾斜を上らない
・アクセルを開け始めたら開度に応じて少しずつトルクが増やせる
・トルクの出始めや増加に遅れがない
・アクセルを緩めたらそれに応じてトルクがすぐ減じる

 何で、そんなに踏み板のことばかり考えるのか? と言うと、この性能は実はとても多くのことに役立つ。例えば雪や氷の上、泥濘路や玉砂利の浮いた場所、それから最初に言った交差点速度での左折(右折より半径が小さい)で必要になるからだ。

 雪や氷は適切なトルクを適切なタイミングで掛けないとグリップが確保できないし、低速で小半径の転回をする場合、遠心力と求心力をバランスさせる速度のコントロールはかなりシビアになり、ちょっと精度がズレると横向き加速度の不連続な変化になって不快に感じる。昔から高級車が大排気量だったのは、ここでジェントルかつ静かにクルマを振る舞わせたいがためで、動力性能の追求は二の次である。

 「最大値を得んがため」ではない。小さいが必要な動きをさせるための微小な操作へのリアクションが良いクルマ、が好みなのである。

 と、評価軸の基本を説明し終わったので、ここから編集担当を喜ばせるサービスタイムを始める。読者諸氏が同じく喜んでくれるとよいが、筆者の全所有車履歴である。というか、37年の自動車歴にしては異様に少なく、たった4台なので簡単だ。

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