マツダの描くADASの未来(前回参照、こちら)は、運転者が窮地に陥った時にすかさず介入して助けるシステムであり、普段は副操縦士のように控えつつ、つねに引き継ぎの準備をしている。ゆえに「コ・パイロット(Mazda Co-Pilot Concept)」と言うのだという話を聞いた。
ここまでで、「廣瀬一郎専務執行役員」としてアナウンスできるマツダの戦略は、あらかた話してもらったと思う。
最後に、激しく移り変わっていくことが予想される2020年代を通して、マツダはどんなクルマを理想とするのか、今まだ足りないものは何なのかというあたりを、廣瀬さんの個人の意見として存分に話してもらおう。

池田:さて、これでほぼ全ての質問に答えていただいたわけですが、一番最初に話した「人間中心」のところにもう1回最後に戻って締めたいと思います。マツダが信条とする「人間中心」の開発思想のところの説明をしっかりしていただきたいなと。マツダは、思想的なところが一番面白いので。
マツダ 専務執行役員 廣瀬一郎氏(以下、廣瀬):はい、はい。
池田:さっきのGの話(「マツダの廣瀬さんはどんなクルマを造りたいのか」)もすごく面白かったし、この「人間中心」って、たぶん語りでがすごくあるところなので、廣瀬さんの生の言葉をもっと拾っておきたいんです。
廣瀬:そうですか(笑)。ちょっとストーリーテリングの修業をしなきゃいけませんかね(笑)。藤原(清志副社長)がすごいストーリーテラーで。
池田:そうそう。あの人はやっぱり天才ですよ、予告もなく投げた球に対する反射神経が常人離れしている。
廣瀬:藤原も私もエンジニアリングの、作る側の人なんですよ。でも藤原のようなストーリーテラーになれと言われて、誰でもというわけには(笑)。
「箱入りエンジニア」はいかにして「変態」になったのか
池田:いや、でも、廣瀬さんのお話はすごく個性があって面白かったです。
編集Y:クルマは人間の拡張機能、というところまではふんふんエンジニアの方らしいですねと聞いていたんですけど、クルマの運転が、人間の精神状態にまでフィードバックしてくるでしょう、とおっしゃいましたよね。そう言われれば当然のことなんですけど、あれをするっと自然に言われたところで、「ああ、廣瀬さんもやっぱり変態なんだな」という気がしました。
廣瀬:褒めてもらえた(笑)。(※編注:マツダでは「変態」は褒め言葉である。性的嗜好を示す言葉ではないので念のため)
編集Y:いいクルマを運転すると精神にもいいフィードバックがある。こういうことはいつからお考えになっていたんですか。
廣瀬:そうだな……言ったら私はずっとエンジニア、自称「箱入りエンジニア」だったんですね。52歳になってフランクフルトにあるマツダ・リサーチ・ヨーロッパ、研究開発拠点センターの所長で2年間行ったんです。
2年の間、現地でベンチマークになるような優れたクルマを2~3カ月置きぐらいに、ずっと日常の足として使いました。毎日、同じ道をずっと走っていくんですけど、欧州、それもドイツって道も含めてちゃんと規格の中で造られている。その中で、いつもの同じ道を同じように合流していくときに、クルマによってはあれっ、今日は何か昨日より上手くシュッと回れたぞ、意識と動きが一体になっているぞ、と思うことがありました。そして、昨日より今日、今日より明日と、自分の感覚がどんどん研ぎ澄まされていく感じというか。成長を感じるなとか、気のせいではない、実際にそうだと思ったんですね。
池田:クルマはなんでしたか。
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