前回は、マツダがモノ造り革新を行い、モデルベース開発に至るまでのバックストーリーを追いかけてみた。今回はカーボンニュートラル時代の前半戦において、マツダの未来を担うパワートレーン(動力源)、特に、ロータリーユニットがどんな役割を果たすのかを中心に掘り下げていこう。

池田直渡(以下、池田):さあ、細かいところ、個別の製品の話に入っていきます。まずは鳴り物入りでデビューしたエンジン「SKYACTIV-X」の話ですね。
担当編集Y(以下、編集Y):「いきなりXと言われても」と思う読者の方もいると思いますので、池田さん、ここでちょっとXの説明をしてください。
池田:いやYさん、ここでなぜ廣瀬さんに聞かないの(笑)。SKYACTIV-Xというのは、これまでのガソリンエンジンとは、もう燃焼の理論から全く別物の新発明エンジンですね。HCCI(予混合圧縮着火)という方式で、理論としては世界中のメーカーが注目していました。あらかじめ燃料と空気を混ぜた「混合気」を、圧縮して温度上昇させることで着火させるんです。

マツダ 専務執行役員 廣瀬一郎氏(以下、廣瀬):池田さんがXをどう見ているか、ぜひ伺ってみたいですね。
池田:理論からして新発明のエンジンを、いきなり普通に使えるように仕上げて売っている、それ自体が本来スゴいと評価されるべきことだと思っています。ただ、そのスゴい理論が形になったものとしてスペックに説得力があるかというと、そこにはまだ物足りないものがあるのも確かです。
Xはもっともっと期待に応えねばならない
池田:これはやっぱりどうやっても商品力を高めていかなきゃいけないですよね。燃費もパワーも、あるいはラムダ値(理論空燃比を1としてその何倍の空気を入れられるか。例えば空気が2倍ならλ2)をもっと上げて、希薄燃焼による内燃機関の革新まで含めて、いっぱいやっていかなきゃならないことがあるんですが、このエンジンには発展の余地はあるものでしょうか。
廣瀬:あります(笑)。十二分に。
池田:十二分にあるんですね。
廣瀬:あります。
池田:目標は言えますか。
廣瀬:ロードマップで示しているファイナルステップまではいきます。ここはしっかり進めています。
池田:Xについては、動力で、燃費で、もうちょっとみんなを満足させる数値を出したら、Xのみならずマツダへの評価は結構変わると思います。
編集Y:私、山道で堪能する機会があって、扱いやすいしパワフルだし、そして、アクセルを踏みまくった割に燃費がよくてびっくりしたんです。したんですが、確かにこの値段とこのスペックだと、いくら「乗ればいいんだ」と言われてもちょっと理解されにくい気がします。
池田:「マツダは内燃機関の究極を目指す、全力を振り向ける、みたいな言い方をしていたのに、結果はこれか」という厳しい評価が世の中にはあるわけですよ。
編集Y:うーん。期待値を上げすぎたのか。
池田:それに対してボクらは、「いや、これは道半ばだからさ。燃焼の原理から新発明という、ある意味生まれたてのエンジンに一足飛びになにもかも求めても無理だよ」とは言うんだけれども、確かに目の前に数字が出てこないと弱いんですよね、そこはね。
廣瀬:はい。
池田:ですので、夢のエンジンであるSKYACTIV-Xがどの程度までいくのかというのを、どこかでぜひ具体的な数字でロードマップを示していただけると、「マツダがやってきたことは失敗だ」という世間のそしりに対して、いやいや、ちょっと待てと言えると思うんですね。
廣瀬:しつこい性格なので、やりますよ、これからも出していきます。

池田:なるほど。絶対にやるけど、いつどの程度とはまだ言えないと。分かりました。そして次の疑問は、同じSKYACTIV-Xのマイルドハイブリッドの24ボルトは、なぜ48ボルトではないのか、なぜ24ボルトになったか、です。
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