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 さて、硬い話ばかり続いてきたので、このあたりで、少し肩の力を抜いて、マツダのクルマ造りのフィロソフィーについて、クルマ好きの談義のような形で進めていこう。

 厳しいビジネスの世界だけれど、結局好きなことをやっている、という恵まれた人たちが、何を世に出したくて仕事をしているのか? クルマ造りの根底にあるのはどんな考え方なのかを紐解いていきたい。

マツダ・廣瀬一郎専務執行役員
マツダ・廣瀬一郎専務執行役員

池田直渡(以下、池田):マツダは、今、「クルマで人の生活を豊かにする、人生を豊かにする」ということをずっとおっしゃっているわけじゃないですか。プレゼンテーション資料の冒頭に必ずこれが入っていますよね。そういうクルマ造りの話の中で、ぜひ、廣瀬さん個人の思いをお伺いしたいです。100年に一度という大変革期を迎えて、いろいろな課題がある中で、あらためて人生を豊かにするクルマというところについて、存分に語っていただきたいと。

担当編集Y(以下、編集Y):あまり照れずに、思っていることをそのままおっしゃっていただくのがコツかと思いますです。

マツダ 専務執行役員 廣瀬一郎氏(以下、廣瀬):はい。ウチの藤原(藤原清志・副社長執行役員兼COO)みたいに。

編集Y:日経ビジネス電子版の読者の皆さんは“マツダ節”には慣れていますので、藤原さんぐらい暑苦しく言っていただいて全然大丈夫です。

廣瀬:そうですか。んー、やっぱり、クルマは、単なる道具じゃなくて、何というか、私自身は人の拡張、拡張身体だと思っています。あるいは第0関節とか。第1関節の先にある関節で繋がっている何かであると。

 そういうものが自分の可能性を広げてくれたりとか、自分の感性を豊かにしてくれたりとかということが、それぞれの人生を豊かにするんじゃないかと。ということは、一番大事なものは「人とクルマの関係性」の中にあるのだと思うんですよね。あくまで人との関係性であって、ハードウエアとしてのクルマの絶対性能が単独で向上することじゃないのではないかと。人とクルマが一体になることで、「自分という人間の性能が上がる」。それが私たちが目指している「人間中心」なのだと思います。

編集Y:おおー。

廣瀬:クルマだけ、人間の身体だけだと、エゴが顔を出してしまう。そのようなときに、人がクルマとつながることで、良い人になるとか、自分の中の良いヒューマニティーが出てきて、そのヒューマニティーがひいては社会を豊かにすると、何かそんなことを目指しているというか願っているんですね。

 それは人、社会、地球というふうに全部繋がるはずで「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」では、これを期間中に到達させようと言っているんですけど。

池田:なるほど。

廣瀬:池田さんからいただいた事前質問に、「電気自動車(BEV)になって車両運動制御デバイスが安価になっていっぱい加わって、電制ステアリングとかアクティブヨーコントロールとかで性能が上がっていくと予想されるけれど、マツダはどうするんですか」というのがありましたよね。それに対するマツダの答えは、「あくまでも人間中心なので、クルマの絶対性能が上がって人を置き去りにぶっ飛んでいくようにはしたくない」。言い換えると、ひたすらコーナリングスピードを上げることには意味を感じないです。

編集Y:なぜですか。

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