将来の現実的なソリューションは水素かもしれない

池田:そもそも、G7の各国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)だって、「例外なきオールBEV化」は無理だと思います。だからこそ、欧州自工会は否定的声明を出したのでしょうし、個社で見ても、マルチソリューションの出口として、水素とe-fuelには各社とも相当に力を入れていますよね。

廣瀬:そうですね。ポイントとしては、どちらも内燃機関だという点です。

池田:なるほど。

廣瀬:今持っている内燃機関の技術を捨てずに活用したいというところが、各社やっぱり一番大本にあるみたいですね。国が豊かであっても、国民全部が富裕なわけではないですから、富める者にもそうでない者にもあまねくカーボンニュートラルを普及させるという面で見れば、よりリーズナブルな選択肢が必要なはずで、そのためには既存のリソースが生きる道を考えるのは合理的だと思います。

水素、e-FUEL、バイオ燃料など、内燃機関の活用もマルチソリューションの解に含まれている
水素、e-FUEL、バイオ燃料など、内燃機関の活用もマルチソリューションの解に含まれている
[画像のクリックで拡大表示]

池田:旧来技術の再活用という面では間違いなくそうなるはずなんです。だけど、一方で、「オールBEV化が進んでいる、進む」という幻影が広まっているじゃないですか。タイミング的に今は世界中が金余りの局面にある。そういうバブルに一部の人々が一生懸命乗っかって、どれか一つに資金を集中させることで「将来業績が伸びる」という期待を集めて、株価を爆上げしたい。要するにその“おみこし”がBEVなんですが、そのためには、脱炭素問題を真面目に考えたマルチソリューションなんて、邪魔になるわけです。いわば「票を割る」行動ですから。

 そういう思惑が正しい議論を阻んでいる気がするんですね。投資側もそうなら、産業側でも「次の産業覇権を、BEV一点買いでもしかしたら取れるんじゃないか」という強欲構造が渦巻いているような気がします。

廣瀬:そうだとすると、思惑で使われてしまうBEVが気の毒です。開発現場にいる人たちは、本気でカーボンニュートラルに貢献しようとしているはずなんです。

池田:それもこれも本を正せば、金余りが呼ぶ弊害なのですが、金余り現象で言えば、もう一つは、広義の感染症対策で世界中で漏れなくばらまき政策が進んだのも影響していますよね。これは現在進行形の問題です。

廣瀬:そうですね。ああいう政策は使われ方も想定されていますから、コロナで落ち込んだ地域経済復興の一つの大きなドグマとして使っていこうみたいな。

池田:ですね。自動車産業の側で言えば、そういう投機マネーの筋が、目を皿のようにして運用先を探している現状で、何とかして原材料価格の安定化が見込めるんだったら、まだやりようはあると思うんですけど、見通しとしては絶望的に厳しいじゃないですか。

廣瀬:やっぱり電池にしても何にしても、電動化方面の設備産業ってまったく間に合ってないので、今から工場建設に着工しようと言っても、相当先になってしまう状況ですしね。一番の問題は、もの造りの世界では、努力の問題ではなく、構造的にどうしてもある程度のリードタイムが必要となるので、朝令暮改的な変化の速度ではやっていかれないという問題があるのです。

次ページ 基本的に、次世代論争は全てポジショントークだ