廣瀬:欧州委員会としては、ああいうものを観測的に打ち出した上で、OEM(自動車メーカー)各社との間で綱引きをしていきながら、最終的に「落ち着き得るところ」に持っていくということだろうとは思っています。今回もまた、理想論的な大きな打ち出しをされているのではないかなというふうに個人的には思っていますけど、ただ、その後、すぐさまメルセデス・ベンツが2030年に全部EVにしますとかああいうことを発表しましたので、影響を注視しているところです。

池田:しかし、一方で欧州自動車工業会は、かなりはっきりと否定的声明を出していましたよね。

廣瀬:そうです。インフラもそろってないし、どうするんだと言っていますね。各社の動向を見ている限り、電気自動車(バッテリーEV、以下BEV)一本で進む感じはあまりないです。実際、水面下では、結構水素の研究をやっているとか。外部研究機関などに聞くと水素の引き合いはひっきりなしだという話も出ていますし。BEVもやりながら、他の方法も模索する形だと受け止めております。

 なのですが、この話を進める前に一度、原理原則の話を確認しておかないと、われわれの本来の意図と違う誤解を生む恐れがあるので、まずは、そこを説明させてください。

池田:どうぞ。

「内燃機関禁止」だけでは環境は守れない

廣瀬:マツダの大原則としては「2050年カーボンニュートラルの達成に向けての挑戦」は、企業としての極めて重要な使命だと考えています。地球温暖化を抑制し、地球環境を守るのは、個社としてのマツダはもちろん、これは世界の全ての人々にとっての重要な課題でもあります。

 ただし、それを達成する上で、われわれが最適だと考えているのはあくまでも「マルチソリューション」であり、この重要な問題を解決するのに、たった一つの方法、それは今回の欧州委員会の発言にあるような、「内燃機関を禁止してBEVだけにする」というような単一アプローチだけで地球環境を守れるというほど、簡単なものだとは考えておりません。

 世界全体で取り組まなければいけない問題に対して、世界の国々は、豊かさも、エネルギーの事情も、インフラの普及段階もそれぞれに異なっていて、そういう多種多様国々で暮らす多種多様な人たちの、誰もが「2050年カーボンニュートラル」を目指して、ベストを尽くしていかなければ解決できないはずです。そのためには、脱炭素のための方法は、それぞれの国や地域の事情に即したものであるはずです。チャレンジとしてのハードルは高い方がよい、ということに異論はないのですが、かと言って、いたずらに高くして、多くの国や地域が飛べない高さに設定することはむしろ逆効果になると思うのです。

 だから、“適材適所”的な、時代の変化によっても変わっていくでしょうけれど、その地域でベストなソリューションをたくさん用意しなくてはならない。それが自動車を造る企業の責務だと考えています。「マルチソリューション」の意味は、そういうことです。BEVはもちろんその中の重要な要素です。ですが、既存の燃料しか使えない国でもいかにCO2排出量を減らすかということについても、再生可能燃料の普及など、技術の力によるさまざまな取り組みを同時並行に進めていかなくてはなりません。

[画像のクリックで拡大表示]
全てのクルマは電動化されるが、国ごとの経済力や電源構成などによって、脱炭素に向けての方策は変わってくる。そして下の図のように、ハイブリッドひとつ取っても、電池の容量、モーターの出力などによってさまざまな組み合わせが考えられる。市場の要望に合わせて、カーボンニュートラルへの最適な解を提供するのが、マツダの言う「マルチソリューション」だ。当然、開発・生産効率の問題が立ちはだかるはずだが、そこは後ほど突っ込んでいく
全てのクルマは電動化されるが、国ごとの経済力や電源構成などによって、脱炭素に向けての方策は変わってくる。そして下の図のように、ハイブリッドひとつ取っても、電池の容量、モーターの出力などによってさまざまな組み合わせが考えられる。市場の要望に合わせて、カーボンニュートラルへの最適な解を提供するのが、マツダの言う「マルチソリューション」だ。当然、開発・生産効率の問題が立ちはだかるはずだが、そこは後ほど突っ込んでいく
[画像のクリックで拡大表示]

池田:おっしゃることはよく分かります。ハードルを跳べない人たちを取り残したら、全地球的取り組みではなくなってしまいますし、といって、頑張るだけではどうにもならない国や地域に対して、ただ「いいからご託を並べてないでやれ」とブラック企業のようなことを言ったって、できないものはできないですからね。だからマルチソリューションで「誰も取り残さないカーボンニュートラル」を目指すのだと。

廣瀬:はい。

次ページ 将来の現実的なソリューションは水素かもしれない