マツダがこのサスペンション(を使うプラットフォーム)で狙ったこと

 さて、ではマツダ自身はそのトレードオフ(低速時の突き上げ・対・中高速旋回時の自然さ)をどう評価しているのかについてだが、マツダの、というか虫谷さんの説明ではこういうことだ。

・人が歩行するとき、目の高さは5センチ程度上下し続けている。しかし人体はその5センチの上下を不快に思わず、自動的にキャンセルする仕組みを持っている。

・対して、同じ歩行中に、人間の目は左右方向には合計で2~3センチしか動かない。これ以上の揺れは不快になるし、キャンセルできない。だから、縦揺れと横揺れのどちらかしか取れないのだとしたら、横揺れを防ぐ方が重要だ。

 と虫谷さんは言うのである。

 「中高速旋回時の自然さ」といっても、なかなかイメージが伝わらないと思う。実はここで筆者は社内用の実験結果から、CX-60と同クラスの競合車、計3台を並べて、同じコーナーを同じ速度で回る際の、前席と後席の乗員の頭部の揺れの映像を見せられた。これを見る限り、明らかにCX-60の乗員の横揺れは少ない。特に後席のそれは圧倒的な差である。実験を行った虫谷さん本人も「ここまでの差になるとは思っていなかった」とのことである。

 だから、マツダは以下のような結論に達した。人体に備わるキャンセル機構で吸収できる縦揺れを許容した代わりに、キャンセルできない横揺れを圧倒的に減らした。長時間になればそれによる人体への負荷は大きな差になるはずで、それは、500キロとか1000キロとかを走れば、明確に体の疲れの差となって表れる。距離が100キロでも同じことで、CX-60は疲れないし、それはこのクルマが提供する新しい価値だ、ということだ。これらについては後ほど、可能な限り図を入れて説明したいと思っている。

 さて、言わんとすることは分かるが、目の揺れはともかく、突き上げは振動として体に入る。全部が全部は同意できないところもある。だが、マツダがそこにどのように優先順位を付けたかは少なくとも理解できた。これはまた近いうちに長距離走って、身をもって試してみなくてはならない。マツダ自身も、この突き上げの現象そのものは認めており、改善を続けていくとのことだ。

とりあえずの結論

 ようやく、乗り心地の部分に際しての総評である。マツダのフラッグシップグレードのクルマとして、CX-60はおおむね時速30キロ以下の低速域での突き上げがやはり気になる。ただし、それは中高速域での横揺れが少ないこととトレードオフになっていて、どちらを取るかは個人の価値観で決めるしかない。なお乗り心地の悪さ度合いで言えば、歴代のBMWのMスポーツやメルセデス・ベンツのAMGあたりには、CX-60よりもっと悪いものも平気であった。筆者としてはCX-60の低速域の乗り心地には合格点は与えられないが、もっとひどい乗り心地のクルマをもっと高いお金を払って買う人がいる以上、許容できる人もいる、ということは事実だろう。

 ドイツの2車の乗り心地は、リアタイヤの支持剛性とのトレードオフということではなく、単純に締め上げたダンパーやバンプラバーの使い方によるものだ。それを思えば、確かにマツダの考え方にアドバンテージはあるように思う。CX-60のコーナーリング時の挙動は、動画撮影時の手ぶれ補正用ジンバルの様に滑らかで自然なので、そこに価値を感じるか感じないかと問われれば明らかに価値はある。

 ということで、CX-60の低速時の乗り心地問題と、それがどうして起きたかの解説はひとまず締める。

 この後、少し間をおいて、クルマ全体の評価記事を書き、その後に虫谷さんらマツダ技術陣への取材の一問一答を何回かに分割してお届けする。

 長くややこしいサスペンションの分かりにくい話にお付き合いいただいたことについて、読者の皆様に感謝をして、この項の結びとしたい。

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