謎は全て解けた!(かな?)
筆者の推測だが、要するに、こういうことではないか。マツダのラージプラットフォームは、きたる電動化をにらんで設計されたシャシーである。現状マツダではマイルドハイブリッド(MHEV)を採用したものが多いが、ハイブリッド(HEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)、果てはバッテリー電気自動車(BEV)まで視野に収まるだろう。後者ほど必要なバッテリーが大きく、重くなる。特にBEVになれば、従来とは桁違いにクルマは重くなる。
その重さに対抗するために、マツダはリアホイールの位置決めをガッチリさせたかった。バッテリーの重さは数百キロ単位。尋常ではない。そんな重たいバッテリーの慣性重量でブッシュをこじられたら、トー変化がぐちゃぐちゃになってしまう。マツダが自らのレーゾンデートルとする「乗って楽しいクルマ」を造るハードルがぐっと高くなる。
だから、タイヤを付けるホイールをがっちり固定せねばならず、リアサスの支持剛性に徹底的にこだわった。なんだったらド・ディオン・アクスルにしてもいいとさえ思った(かもしれない)のだが、車軸位置に決め打ちで左右をつなぐ邪魔なパイプとドライブシャフトがあっては、バッテリーの置き場がなくなる。不等長のダブルウィッシュボーンもめちゃめちゃに長いロアアームが必要になってこれもバッテリーが積めなくなる。

そこで、バッテリーに場所を譲るために、短いアーム長でコンパクトに構成できるマルチリンクを採用した。もう1つメリットがある。少し大げさに言えば、マルチリンクはダブルウィッシュボーンよりもアームの数が1本多い。それをトーコントロールに使うのではなく、がっちり位置決めすることに専念すれば、より位置決め性能が上げられる。4本より5本の方ががっちりする。それはそうだが、従来のマルチリンクの概念から言えば、常識外れも甚だしい。
つまり、このサスペンションは極端に言えば、ハブと5本のアーム(リンク)がほぼ一体になった状態でグループ化されており、その塊ごと動く。動き切れない場合にその辻つまを合わせるのは、サスのボディ側ピボットに仕込まれたブッシュと、リアサスを取り付けたサブフレームとボディの間に仕込まれたブッシュである。
確かにハブ側でコンプライアンスを取ると振れ幅がより大きくなってしまうから、根元側で取った方がいいというのは理屈では分かる。要するに多くの人を議論に巻き込んだこのサスペンションは、ちょっと大げさに表現すると、ド・ディオン・アクスルを、5本リンクの「マルチリンク的サスペンション」でエミュレートしたもの、だったのだ。
となれば、突き上げはそうやって一体化した5本のリンクとハブの慣性質量が大きいことに起因していて、リンクの渋さや軌跡の矛盾に依存するものではない、ということか。
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