謎は全て解けた!(かな?)

 筆者の推測だが、要するに、こういうことではないか。マツダのラージプラットフォームは、きたる電動化をにらんで設計されたシャシーである。現状マツダではマイルドハイブリッド(MHEV)を採用したものが多いが、ハイブリッド(HEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)、果てはバッテリー電気自動車(BEV)まで視野に収まるだろう。後者ほど必要なバッテリーが大きく、重くなる。特にBEVになれば、従来とは桁違いにクルマは重くなる。

 その重さに対抗するために、マツダはリアホイールの位置決めをガッチリさせたかった。バッテリーの重さは数百キロ単位。尋常ではない。そんな重たいバッテリーの慣性重量でブッシュをこじられたら、トー変化がぐちゃぐちゃになってしまう。マツダが自らのレーゾンデートルとする「乗って楽しいクルマ」を造るハードルがぐっと高くなる。

 だから、タイヤを付けるホイールをがっちり固定せねばならず、リアサスの支持剛性に徹底的にこだわった。なんだったらド・ディオン・アクスルにしてもいいとさえ思った(かもしれない)のだが、車軸位置に決め打ちで左右をつなぐ邪魔なパイプとドライブシャフトがあっては、バッテリーの置き場がなくなる。不等長のダブルウィッシュボーンもめちゃめちゃに長いロアアームが必要になってこれもバッテリーが積めなくなる。

上下に長いアームが必要なダブルウィッシュボーンは、ストラットなど他のサス形式に比べて車内のスペースを圧迫する。(図:三弓 素青)
上下に長いアームが必要なダブルウィッシュボーンは、ストラットなど他のサス形式に比べて車内のスペースを圧迫する。(図:三弓 素青)
これはCX-60のフロント側のサスペンション。進行方向に対して縦置きのエンジン配置なので横方向にスペースの余裕があり、ダブルウィッシュボーンを採用している。(画像:マツダ、注記は編集部)
これはCX-60のフロント側のサスペンション。進行方向に対して縦置きのエンジン配置なので横方向にスペースの余裕があり、ダブルウィッシュボーンを採用している。(画像:マツダ、注記は編集部)
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 そこで、バッテリーに場所を譲るために、短いアーム長でコンパクトに構成できるマルチリンクを採用した。もう1つメリットがある。少し大げさに言えば、マルチリンクはダブルウィッシュボーンよりもアームの数が1本多い。それをトーコントロールに使うのではなく、がっちり位置決めすることに専念すれば、より位置決め性能が上げられる。4本より5本の方ががっちりする。それはそうだが、従来のマルチリンクの概念から言えば、常識外れも甚だしい。

CX-60のサブフレームに組み付けられたリアサスペンション。5本の短いリンク(アーム)でハブと接続し、タイヤをがっちり位置決めするとともに、車内容積を稼いでいる。1と2がフロントアッパー/フロントロワーアーム、3と4がリアアッパー/リアロワーアーム、5がトーコントロールアーム(画像:マツダ、注記は編集部)
CX-60のサブフレームに組み付けられたリアサスペンション。5本の短いリンク(アーム)でハブと接続し、タイヤをがっちり位置決めするとともに、車内容積を稼いでいる。1と2がフロントアッパー/フロントロワーアーム、3と4がリアアッパー/リアロワーアーム、5がトーコントロールアーム(画像:マツダ、注記は編集部)
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 つまり、このサスペンションは極端に言えば、ハブと5本のアーム(リンク)がほぼ一体になった状態でグループ化されており、その塊ごと動く。動き切れない場合にその辻つまを合わせるのは、サスのボディ側ピボットに仕込まれたブッシュと、リアサスを取り付けたサブフレームとボディの間に仕込まれたブッシュである。

CX-60のリアサスはサブフレームに接続され、サブフレームは4箇所でボディにマウントされている。(画像:マツダ、注記は編集部)
CX-60のリアサスはサブフレームに接続され、サブフレームは4箇所でボディにマウントされている。(画像:マツダ、注記は編集部)
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CX-60のサブフレームとボディをつなぐ巨大なブッシュ(黒い部分がゴム。中央部は金属製で、ここでサブフレームと締結する)。かかる力の向きによって変形量をコントロールするために、素刳り(すぐり)を入れた凸凹の複雑な形をしている
CX-60のサブフレームとボディをつなぐ巨大なブッシュ(黒い部分がゴム。中央部は金属製で、ここでサブフレームと締結する)。かかる力の向きによって変形量をコントロールするために、素刳り(すぐり)を入れた凸凹の複雑な形をしている
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 確かにハブ側でコンプライアンスを取ると振れ幅がより大きくなってしまうから、根元側で取った方がいいというのは理屈では分かる。要するに多くの人を議論に巻き込んだこのサスペンションは、ちょっと大げさに表現すると、ド・ディオン・アクスルを、5本リンクの「マルチリンク的サスペンション」でエミュレートしたもの、だったのだ。

 となれば、突き上げはそうやって一体化した5本のリンクとハブの慣性質量が大きいことに起因していて、リンクの渋さや軌跡の矛盾に依存するものではない、ということか。

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