先ほど筆者は「マツダはマルチリンクを使いながら、左右輪別々のトーコントロールをあえてやめたのだ」と書いたが、本当の目的は「左右輪別々のトーコントロールをやめることで、揺動軸を揃えたマルチリンクを造る」ことだったのか。ああ、そういうことか。確かに上下のアームの揺動軸が揃っているならば、回転軸が並行ということなので、アームの軌跡に矛盾は発生しない。矛盾が発生するとすれば、「前側上下」と「後ろ側上下」さらに「トーコントロールアーム(トーをコントロールしないのにその呼び名でいいのかには疑問があるが、限界域ではコントロールをするらしいので、あながち見当違いの名前とも言えない)」の3要素だけで、5本の矛盾を解決するよりはずっと要素が減る。それならハブの回転で逃げる設計もだいぶ楽なのではないか? それが可能なのだとしたら、マルチリンクにピローボールを使っても全く問題はない。ただ最初からトーをコントロールする気がないんだったら、なんでマルチリンクにするのだ?

 だから筆者は尋ねた。「そんなに対地キャンバーの変化とトーコントロールにこだわるなら、いっそド・ディオン・アクスル(※4)にすればよかったじゃないですか?」。それを聞いた虫谷さんは画面の中から満面の笑みで言った「そうです。ド・ディオン・アクスルがつくりたかったんです」

 筆者は絶句した。いや、なんだろう。この全身から力が抜けていくような感覚。言いたいことはほぼ完璧に分かってしまった。ド・ディオン・アクスルとは実質的にリジッドアクスル(※1)の一種で、左右のタイヤをデフハウジングの代わりにド・ディオン・チューブという極太のパイプでつなぎ、左右輪を一体にしたものだ。リジッドのバネ下の重さを嫌って、デフ(※2)だけボディ側に吊ったシステムがド・ディオン・アクスルだ。

(図:ILMA Express)
(図:ILMA Express)
[画像のクリックで拡大表示]

 トラックのリアサスのリジッドアクスルと基本構造は一緒である。左右が構造体で完全に連結されたタイヤは対地キャンバー変化もトー変化も原理的にはゼロである。車軸の左右にタイヤを付けた土台の上で、バネ上(ボディ)だけがロールするのだ。そういう意味では理想のサスペンションであるのだが、独立式サスペンション(※3)よりどうしてもバネ下が重いので悪路での追随性が悪く、細かい突き上げがある。つまりCX-60に乗って筆者が気になった症状と全く一緒である。

※1 リジッドアクスル:アクスルとは「車軸」のこと。左右のタイヤを棒でつないで固定する形式。トミカのタイヤの取り付け方を想像していただければよい。地面に対してタイヤを垂直に保つこと(ゼロキャンバー)に優れる。
実際の自動車の場合は、エンジンの回転を下記のデフを介してタイヤに伝える機能を持つ。左右それぞれのアクスルの間にデフが挟まり、ケース(ホーシングと呼ぶ。ハウジングがなまったもの)に収められている。この全体を「リジッドアクスル」と呼ぶ。リジッドアクスルをスプリングや板バネ、ショックアブソーバーで車体に接続すると「リジッドサスペンション」となる。なお、リジッドアクスルは和製英語で、英語では「Live axle」というそうだ

※2 デフ:正確には「ディファレンシャルギア」。日本語では「差動装置」。図の中央下部の円形の部分。カーブを走る場合、同じ時間でも外輪は内輪より長い距離を移動するので、駆動輪の場合は左右のタイヤに速度差を付けてやらないと曲がりにくくなってしまう。動力を左右に分配する際に、速度差を調整するのがデフの機能。重要部品であり、複雑で、重い。

※3 独立(懸架)式サスペンション:左右のタイヤを車軸でつながず、それぞれ別々に動くようにしたサスの形式。構造は複雑だが乗り心地をよくしやすいので現在の乗用車の主流となった。CX-60のリアサスも独立式である

※4 ド・ディオン・アクスル:重量物のデフを車体に固定することで、バネ下(サスペンションからタイヤまでの部分)を軽量化する形式。リジッドアクスルと独立式サスペンションの「いいところ取り」を狙ったもの。ホーシングはなく、左右のタイヤは独立して動くが、ハブは鋼管(ド・ディオン・チューブ)で剛結されている。1960年代までは高性能車に多く採用された

次ページ 謎は全て解けた!(かな?)