(前編はこちら
9月1日のマツダCX-60試乗会場にて。疑問点を突き詰めていったらなんと2カ月も経ってしまった。
9月1日のマツダCX-60試乗会場にて。疑問点を突き詰めていったらなんと2カ月も経ってしまった。

 さて、昨日の記事では、CX-60試乗時に感じた路面からの突き上げを指摘し、マツダがCX-60に採用した“変な”リアサスペンションの話を書いた。まず、どこが変なのかを改めて説明しておこう。

 CX-60がリアに採用したマルチリンクサスペンションは、ブッシュでごまかさない限り動かない、という話を前編で延々とさせてもらった。常識的な設計においては、マルチリンクは、ロール時にトー変化(求心力を増やすためにトーイン側に動かしたい)を積極的に起こすために、アームの先端が描く軌跡にわざと矛盾を付けてある。その矛盾を吸収して作動するためには、ブッシュのコンプライアンス(柔軟性)が必要なのだ。しかしながら、アームで引っ張れば1度動くならば、同じ強さの外力によって1度まではリアのトーが動くということでもある。だからマルチリンクは実はダブルウィッシュボーンよりもタイヤの位置決め性能が悪い。そう考えることができる。

図はフロントタイヤがクルマを上から見てクルマの内側に傾いている「トーイン」状態。お話がリアタイヤなのに申しわけございません。(担当編集Y  図:三弓 素青)
図はフロントタイヤがクルマを上から見てクルマの内側に傾いている「トーイン」状態。お話がリアタイヤなのに申しわけございません。(担当編集Y  図:三弓 素青)

 マツダはこれを嫌った。リアタイヤは路面に対してしっかり直立してほしい。グネグネ動いたら、困るのだ。それでは真っすぐ走らないし、旋回時にも途中で意図せぬ挙動変化が起こる。もっと言えば、トーコントロールアームによる引っ張りで変化するトー角は、付くときにも戻るときにも、人間の操舵(そうだ)と別にロールにともなってアドオンする形で作用する。そういうあらゆる変化を全部キャンセルして、ドライバーからの入力だけに素直にリニアに動くようにしたい。だから、タイヤ側のサスの取り付け部にたわみを許容するゴムブッシュではなくて金属を使うピローボールを採用した。

 推測を加えるなら、このシャシー(車台)はマツダの今後を担うフラッグシップ車種に使う「ラージプラットフォーム」である。最大最重量級のボディを乗せ、さらに今後は、電動化のために重いバッテリーが加わる。そうなったとき、リアサスはもっとがっちりタイヤを固定せねばならない。マツダはそう考えたのかもしれない。

 まあマツダの言いたいことは分かる。分かるのだが、「それは詰まるところマルチリンクに対する否定ではないか?」。そう筆者は思った。少なくともエンジニアリングの常識に沿っているとは思えない。これではトー変化に仕込んだ「矛盾」が解決できなくなるからだ。

虫谷さんがこんなことを見逃すはずはない

 もう一度まとめる。マツダはマルチリンクを使いながら、左右輪別々のトーコントロールをあえてやめたのだ。その代わりトーをグネグネ動かないようにしたい。「何をバカなことを言い出したのだ、この人たちは」というのが説明を聞いた時の率直な感想である。ブッシュという逃げ場を失ったから、試乗で感じたような乗り心地の問題(後席の突き上げ感)が出てきたんじゃないか、と。

 ところが、このアシをつくった張本人は日経ビジネス電子版でクルマの記事を読んでいる方ならご存じの虫谷泰典さん(車両開発本部走安性能開発部上席エンジニア)が率いるチームである。だからややこしい。わが国屈指のサスペンションの専門家である虫谷さんとその一党が、筆者の気付いた突き上げに気付かないとも思えない。

 なので、筆者は再度マツダにオンライン取材を申し込み、虫谷さんに「ピローボールにしたらマルチリンクが動かなくなることなんぞ、虫谷さんは先刻ご承知なはずですが」と問うた。すると虫谷さんは「このマツダのマルチリンクサスペンションは、上下の揺動軸を揃えており、フルピロにしても過拘束にならずストロークするジオメトリーになっています」と答えた。

 なんだって!? マルチリンクなのに、揺動軸を揃えるだって!?