マツダのトライアルが新たなブレークスルーとなって、狙い通り新時代を開くものになるのか、それともみんなが試しつくして出した結論に、今さらわざわざ挑んで敗退するのか、それは全て、市場が決めることになる。ラージが売れて、世の中に受け入れられれば革新。却下されれば先達の失敗をわざわざなぞってみたことになる。まずはそれがCX-60のリアサスにまつわる端的な結論である。

今回の原稿がどうしてこうなったのか

 と言うところまで読んで、「結論はわかったけれど、もっと詳細にマツダがやったことを説明してもらえないと消化不良だ」と話の先が気になってしまった方には、お気の毒だがなんとここから長い長い話が始まる。「すでに長い」と思われた方、ここまでが前置きでありサマリーなのだ。繰り返すが、ここから先をうっかり読んで「難しい」とか「長い」とか言われても責任は持てない。今回の記事は特例中の特例である。何しろドSな担当編集Y氏の謀略によって、書き手である筆者の技術的知識の限界を超えるところまで行かされるビジネス媒体にあるまじき記事である。

 正直な話、筆者だってクルマに関わる全てを知っているワケではない。分からんことはある。というよりは本人の自覚的に言えば分からんことだらけである。若い頃「分かってない話を分かったふりして書くのは絶対にやめろ」と、先達の薫陶を受けた筆者は、基本的にそれを順守して原稿を書いてきた。

 さはさりながら、現実の話をすると、分かる部分と分からない部分は結構シームレスにつながっていて、その境界線に明瞭にボーダーラインが引かれているわけではない。しかしながら、少しでも分からないことをリスクとして完全に排除して、安全を見込んで書かれた原稿は、やっぱり面白くないのだ。

 だから、分からんことを分かったふりをする直前まで踏み込み、誠実さを失わない範囲でギリギリに「攻めた原稿」、面白い原稿をお届けしたい。構造上、限界まで攻めるアクセルに対して、知ったかぶりをしそうになったら止めるブレーキを常に用意して書いているわけだ。「ああ、ここら辺がボーダーラインだな」ということは自覚できるので、そのあたりで地雷を踏まないように注意深く、未探査ゾーンを避けて書くのである。

 それと、このあたりの話でもうひとつ大事なことがある。こういう原稿ではとりあえず算数レベル、例えば四則演算あたりからやらないと普通の人が付いてこられないわけだが、1本の原稿の中で、そのまま話が一気に微分積分が必要なレベルまで進んだら、それはそれでコンテンツの設計として失敗である。読む人が極端に少なくなってしまうことになる。

 要するに自分の書き手としての限界と読者の耐久力を両にらみに置いて、どこかでお茶を濁さざるを得ないのが「サスペンションの話」の山の高さである。過去にいろんな人の書いた記事を読んでいても、対地ロールの話がおおむね異世界への入り口で、そこから先は計算式で理解する物理学の世界になる。そこに入れるのはそうした耐性のある人だけだ。だからどうしてもその手前で地雷を避けた少し曖昧な原稿になる。それがこの原稿の構造である。

 ところが担当編集Y氏は筆者の気持ちを知ってか知らずか、お茶を濁して限界線でかわした箇所、つまり言い切らないように注意深く逃げた記述に確実に朱字(注意、修正)を入れてくる。「いや文章が面白いので、1回するっと読んで満足して、でも読み返しながら自分がちゃんと理解できたか確認していくと、あれ、わからんってなるんで、そこを腹落ちしたいんですよね」。そう言いながら、逃げを全部潰しに掛かってくるわけだ。長いこと原稿を書いてきたが、こういう督戦部隊付きの突撃をやらされるのは初めてだ。とはいえ、どうしたってこれ以上は説明できないことはある。分かったふりはできない。そこは曲げられない。なので、今回はところどころ「白旗を掲げながら」書くという異常事態になる。

サスの目的は、タイヤと路面の接地状態の効率を上げること

 まず、エンジニアはどうして「ホイールはグネグネ動く」と思っているのか、から始めよう。ここから好事家以外立ち入り禁止の禁足地である。

 サスペンションの目的は何か。すでに述べたように、大別して、乗り心地とハンドリングである。ハンドリングとニアリーイコールの話として、安全性がある。クルマを安全に走らせるためには、乱暴に言うと、タイヤを効率よく路面に接地させて、その性能をフルに発揮させることだ。まあそれだけじゃないからややこしいのだが。

 では、この場合の「効率」とは何か。それは、「タイヤと路面の接地を最適な状態に保つこと」と言い換えていいだろう。タイヤが傾いて接地面積が減るのも嫌だし、減らないまでも面の接地圧に偏りが出るのも嫌だ。そのためには、タイヤを路面に対して垂直に保つことが重要になる。えー、キャンバースラストで横力を稼ぎたい話とかを思い浮かべるのは、今は禁止。まずは単純化した話で頼む。

 もちろん路面の状態はさまざまだし、ハンドルを切れば進行方向に対してタイヤに舵角が付くのはご存じだろうが、そういう領域以前に、アシの伸び縮みや旋回時などの横力を拾って、タイヤの角度が内股やガニ股に変わったり(トー変化)、垂直から傾いたり(キャンバー)することもある。「エンジニアにとっては、ホイール(に接続したタイヤ)はグネグネ動く」とは主にそういうことだ。

 トーやキャンバーという言葉は、さすがにしっかり分からないと算数の話も始まらないので、以下でちょっと自習をお願いしたい。

・「トー」は、クルマを上から見てタイヤ前端が内側に閉じているなら「トーイン(図の状態)」、タイヤ前端が外側に開いていれば「トーアウト」 </br>・「キャンバー」はクルマを前方から見て、タイヤの上部が開く側に倒れていれば「ポジティブキャンバー」(図の状態)、逆に上部が閉じる側に倒れていれば「ネガティブキャンバー」 </br> ・「キャスター(キャスター角)」は、タイヤを支えるサスペンションの車体の取り付け位置と、タイヤの中心を結ぶ角度。自転車の前輪を想起されたい。キャスターはハンドルのセルフセンタリングに影響を及ぼす。(図版:三弓 素青、以下同)  </br>※サスペンションにご興味がある方は、福野礼一郎氏の「超基本サスペンション講座」(https://car.motor-fan.jp/tag/70001052)をお勧めします(編集Y)
・「トー」は、クルマを上から見てタイヤ前端が内側に閉じているなら「トーイン(図の状態)」、タイヤ前端が外側に開いていれば「トーアウト」
・「キャンバー」はクルマを前方から見て、タイヤの上部が開く側に倒れていれば「ポジティブキャンバー」(図の状態)、逆に上部が閉じる側に倒れていれば「ネガティブキャンバー」
・「キャスター(キャスター角)」は、タイヤを支えるサスペンションの車体の取り付け位置と、タイヤの中心を結ぶ角度。自転車の前輪を想起されたい。キャスターはハンドルのセルフセンタリングに影響を及ぼす。(図版:三弓 素青、以下同)
※サスペンションにご興味がある方は、福野礼一郎氏の「超基本サスペンション講座」(https://car.motor-fan.jp/tag/70001052)をお勧めします(編集Y)

 まずはジオメトリー(幾何学)的な特性、つまり外部からの入力がない、理想環境でのサスペンションから説明しよう。

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