今回のテーマは、政治の影響で日本のものづくりが壊滅的危機に瀕しているという話である。背景の説明に極めて多くの文字数を使うので、まずはポイントを先に書いてしまおう。

 9月9日の日本自動車工業会(自工会)定例会見で、豊田章男自工会会長から衝撃的な発言があった。

 「現在、国内では、全自動車メーカーのトータルで年間1000万台を生産しているが、このままで行くとその台数は200万台まで激減する」

 というものだ。この部分、かなり端折って書いているので後で詳述する。自分の会社や給料に置き換えてみればわかるだろうが、8割ダウンは、頑張ってどうなる数字ではない。それは玉砕、全滅を意味することになる。

日本自動車工業会記者会見(9/9)より。アーカイブは<a href="https://www.youtube.com/watch?v=hKWSSl296-M" target="_blank">こちら</a>から視聴できる。
日本自動車工業会記者会見(9/9)より。アーカイブはこちらから視聴できる。

 驚くべきことに、記者側からこの発言への質問が出なかった。筆者はもちろん手を挙げたが、指名してもらうことができなかった。

 そこで筆者は後日、トヨタ自動車のある役員に取材に行き、「放置すれば全体で200万台に落ち込むなら、トヨタはこの先どうするつもりなのか」と聞いた。答えは、さらに衝撃的なものだった。

「われわれはブレずにやるべきことをやろう」

 「豊田(社長)は、われわれはブレずに自分のやるべきことをやろうと。しかし、もし国の方針がわれわれの“やるべきこと”を妨げるものであったとしたら、2030年代の早期までには、2040年からの海外移転スケジュールを考えざるを得ないでしょう」

 昨年10月26日に、菅義偉首相が行った所信表明演説で、カーボンニュートラルが政権の一丁目一番地に据えられて以来、「脱炭素」の動きは急激に加速している。

 もちろん、国連気候変動枠組条約が定める脱炭素そのものに反対する人はほとんどいない。ましてや日本経済の重要な一翼である自動車各社に、脱炭素が要らないなどと言っている会社はひとつもない。

 問題はその方法だ。菅首相は、2021年1月18日の施政方針演説で「2035年までに、新車販売で電動車100%を実現」と宣言した。ここで言う電動車とは、BEV(電池とモーターのみで駆動する電気自動車)とハイブリッド車(HEV)を合わせた走行用モーターを持つクルマのことだ。

 しかし一方で、「脱炭素とはすなわちオールBEV化である」という主張もある。河野太郎規制改革担当相と小泉進次郎環境相の発言が、関係者を通して頻繁に耳に入ってくる。小泉環境相は、「都知事、30年全て電動車で環境相と連携」(日経電子版)などのように、メディアでも機会を捉えてBEVの推進を強く主張している。

 はっきり言ってこれは机上の空論、理想のごり押しである。

 「週刊文春 電子版」が公開した、河野氏のいわゆるパワハラ音声を聞いた方も多いと思う。2030年の総発電量のうち、再生可能エネルギーが占める比率について、現実的な着地点を探ろうとする資源エネルギー庁の官僚に対し、河野氏が声を荒らげて発言を遮り、何としても自らの主張する落としどころへ持っていこうとしているのが分かる。ちなみに文字で読むのと音声で聞くのではかなり印象が違うので、音声を聞くべきだろう。

 再生可能エネルギーに関して言えば、日本ではすでに利用可能な平地には太陽光パネルが大規模に導入されており、拡大余地は限られている。一部では建物などへの設置義務付けなどの話もあるが、それもよくよく検討しないとリスクがある。消防庁の消防研究センターによる「太陽光発電システム火災と消防活動における安全対策」という、太陽光パネル設置建物に対する火災時の消防活動上の注意事項をまとめた資料がある。2014年とちょっと古い時点のものだが、様々な実験によって、放水を伝っての消防士の感電や、パネル裏面の消火困難など多方面の問題が指摘されている。pdf全文へのリンクも付けておくので、158ページにも及ぶリポートだが興味のある人は一読してほしい(こちら)。

 これを読むと、太陽光パネルは、基本的に光を遮らない限りモジュールを破壊しても発電停止は困難であり、仮に夜間の出火であったとしても、火炎を光源とした発電はむしろ太陽光より出力が上がる可能性があるほか、鎮火後0ボルトを確認したパネルが時間経過とともに能力が回復することもあり、電気由来での再出火の可能性も排除できないことが分かる。

続きを読む 2/3 私たちの敵は「炭素」であり「内燃機関」ではない

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