そしてここが極めて重要なのだが、アンドンを点けてラインを止めることは、絶対に非難されない。むしろ問題を発見し、カイゼンの糸口を見つけた行為として褒められることになっている。
対策も、その場しのぎでの解決ではダメだ。何故そうなったか? 何故ならば……を5回繰り返して、真の原因にまで遡及し、問題の原因そのものをなくしてしまう。その結果、工程で行うべき作業は完全に遂行され、それが品質を担保する。それこそがトヨタの言うカイゼンであり、トヨタ生産方式の最重要ポイントである。
仮に車検作業の担当者がアンドンを点けられなかったとしたら、その真の原因は何なのか? 仕事が多すぎたから。あるいは人手が足りないから。それでは「何故」を遡ったことにはならない(無粋を承知で補っておくと、もちろん車検整備の作業場に工場のようなアンドンはない。SOSを発信できなかった、という意味だ)。
筆者の推測にすぎないが、アンドンを点けられない圧力があったのではないか? トヨタの神髄であるはずのトヨタ生産方式を阻害し、いいから頑張れ式の精神論で押し切ろうとした管理体制があったのだと筆者は考える。
あるいは、もうひとつの可能性としては、それだけ大切なトヨタ生産方式の教育が行き届いていないことだ。
「アンドンを点けたら叱られる」事態を許した中枢部
今回の問題を俯瞰的に見ると、事象そのものはそれほど複雑な話ではない。品質とスピードを両立できなかったこと、そして、その解決のための特効薬であるアンドンが点かなかったことだ。
「品質とスピードはトレードオフだろ?」と考えがちだが、トヨタではそうはなっていない。「品質は工程で作り込む」、つまり完全な作業があってこそのスピードであり、完全な作業ができない場合、作業を止めて原因究明をすることこそが絶対的正義なのだ。
そのためにアンドンがあり、アンドンはカンバン方式と並んでトヨタ生産方式のコアである。それが機能しなかったという点から見ると、これはトヨタにとって極めて深刻な事態であると言える。おそらくアンドンを点けさせない圧力、言い換えると「アンドンを点けたら叱られる」という意識は、フラクタルに連なり、トヨタの中枢に近い所までたどれるのではないか?
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