第一に、いま整備士のなり手がいない。慢性的に人が不足しているのだ。
第二に、ディーラーのサービス部門の売り上げの柱は車検であること。
車検での売り上げを伸ばす方法は2つあって、ひとつは当たり前だが台数をさばくこと。もうひとつは単価を上げることだ。車検のついでに、除菌クリーニングをしましょうとか、ガラスコーティングをやりませんかとか、そういう売り込みをして稼ぐのである。
しかし、単価を上げようとしてオプションを積めば積むほど作業量は増える。人が足りないのに、作業を増やし、なおかつ台数をさばかなくてはならない。それは無理筋である。
では何故そんなに忙しくなったのか、ひとつはすでに述べた慢性的な人手不足だが、それだけではない。現在車検サービスを行う多くの会社が、60分や45分というスピードコースを設定している。
これによるメリットは言うまでもないかもしれないが、まずユーザーにとって気軽である。従来のように、数日間クルマを預ける必要がない。予約日にディーラーへ乗って行って、コーヒーでも飲んでいるウチに作業が終わるのだ。
店側にとっても引き上げと納車がなくなることは大きい。引き上げと納車は、客のクルマと店のクルマを運転するため、人員を2人張り付けなければならない。代車を出している場合は乗り換えて帰って来ればいいので1人で行けるが、その代車の維持経費もバカにならない。
1995年(平成7年)に、規制緩和を目的として、道路運送車両法が改正され、車検の際に行われる24ヶ月点検の項目が大幅に削減されたことを機に、こうしたスピード車検は一気に広がる。
トヨタ生産方式は、根性論とは正反対のシステム
問題はメリットと裏表にある。客が待っている間に車検が終わるということは、車検の作業の間「お客を待たせている」というプレッシャーは常に続く。予約は休日に集中しがちで、さらに時間予約制なので、1台が遅れれば次も遅れる。お客はクルマを預けるときになって、「そう言えばあれも交換しておいて」みたいな追加を気軽に言うし、分解整備をしてみたら交換の必要な部品が出てくることもある。開けてみたらのケースはともかく、現場で作業する側の身になれば、追加作業は最初に言っておいてくれないと作業時間の見積もりが違うよということになる。そうして、間に合わず切羽詰まったところで、不正のインセンティブが働く、というメカニズムだ。
売り上げ至上主義によって現場が疲弊したということはあったと思うが、そんな単純なことで問題が発生するということではマズい。トヨタには世界に冠たるトヨタ生産方式があるではないか?
特にここで問題になるのは「アンドン」である。トヨタ生産方式では、自動車の生産工程において、作業が間に合わない際に、それを根性論で解決することを厳重に戒めている。間に合わなければ、頭上にぶら下がっているひもを引っ張ってアンドンを点ける。アンドンによって緊急事態が起こっていることを、周囲が察知し、早急に救援の手を差し伸べる。
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