レクサス高輪については、原稿執筆時点ではまだ処分が発表されていないが、ネッツ愛知では厳しい処分が発表された。工場については「指定整備業務の取り消し」。自動車検査員については在籍8名中7名の解任という処分が下っている。

これも解説が必要だろう。そもそも重要保安部品の分解や整備をするためには、工場が「認証工場」である必要がある。車検整備には重要保安部品の分解や整備行程が含まれるので、当然認証工場でなければ作業ができない。しかし、認証工場では車検のための整備はできるが、車検の取得のためには運輸支局へクルマを持ち込んで、運輸支局の検査員による検査を受けなくてはならない。
対して、「指定整備工場」では、民間の工場内で検査までの全てを行うことができる。認証工場はいわゆる普通の整備設備しか持たないが、指定工場には車検のための測定ラインがある。というかそれがないと指定を受けられない。
指定整備工場の工程では5つの役職が関与する。まずは車検整備をする自動車整備士、そして整備記録簿と車両を照らし合わせ、作業が正しく行われたかのチェックを行い、記録簿にサインする整備主任。国交省から任命を受けて運輸支局の検査員の代行検査を行う自動車検査員。最後に書類一式をチェックして保安基準適合証票を発行する指定整備工場の責任者、となっている。
ここがまたややこしい。基本的に整備業務は、設備(法人)側の資格と、作業する個人との資格の組み合わせで成立しているのだ。細かい話を端折って書くが、自動車整備士は国家資格、自動車整備主任は条件を満たした者が申請し運輸局が選任、自動車検査員も同様に運輸局の選任だが、例えばネッツトヨタ愛知「プラザ豊橋」所属の自動車検査員として選任されるため、その工場を離れたら自動的に解任される。保安基準適合証票を発行する指定整備工場の責任者は、法人としての指定整備工場が選任する。運輸局が選任する自動車整備主任と自動車検査員は、立場上、整備工場の社員でありながら、運輸局の業務を代行するみなし公務員の立場でもある。
指定整備工場でこの5つの役職の作業や確認を経て、発行された保安基準適合証票と古い車検証を運輸支局に送れば、支局の窓口で更新車検証が発行される。この場合、クルマは持ち込む必要はなく書類だけで車検証が発行されるわけだ。
「忙しすぎた」「お待たせしたくなかった」の裏にあるもの
以上のことから、今回のネッツトヨタ愛知「プラザ豊橋」に下された処分がどういうものかがようやく見えてくる。まず法人としての、指定整備業務の取り消しだ。認証工場資格は取り消されていないので車検整備はできるが、指定整備業務を取り消された以上、今後、全ての車両を運輸支局に持ち込まなければならない。あるいは整備だけを行って近隣の指定整備工場へ車検部分を委託するかだ。ちなみにこの指定整備業務は運転免許に似た減点制度になっているため、相当長期にわたり再取得はできない可能性が高い。
自動車検査員は在籍8名中7名が解任された。残る1名も指定を取り消された工場にいても意味がないので、別の工場に移って、選任を受け直さねばならない。解任対象になった7人は当分は検査員に選任されないだろう。かなり厳しい処分ではあるが、不正の代償としては止むを得まい。
さて、では一体何故このような不正が行われたのか? そこを探っていかないとこの記事の存在意義がない。ネッツトヨタ愛知側の説明は、「業務量が多すぎて手が回らなかった。お客様をお待たせすることが申しわけなくて、不正を行ってしまった」という話である。
まあウソではないだろうが、それでは事の全貌が見えないと思う。この問題の背景には無数の要素が絡み合っていると思うのだ。
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