これだけでも極めて重大な問題だったはずなのだが、7月20日にトヨタモビリティ東京「レクサス高輪」で、あらたに565件の不正車検が発覚した。不正の基本的な内容はこれも同様だ。

ネッツトヨタ愛知はトヨタ自動車のお膝元とは言え、それでも厳密に言えば別資本の販売会社。ガバナンス的には別系統の面がある。しかしトヨタモビリティ東京は文句なくトヨタ自動車が株式の100%を所有する直営であり、さらに問題が根深い。
もちろん顧客側から見れば、トヨタの看板の上がったディーラーであれば、それが販売店資本であろうが直営であろうが同じことで、道義的、社会的責任については言い逃れの余地はない。
不正の内容は以下の5項目に関係している。
- 1. ヘッドライトの明るさ
- 2. フロントタイヤの角度
- 3. パーキングブレーキの利き
- 4. 排ガスの成分
- 5. スピードメーターの精度
なお、トヨタモビリティ東京の説明によれば、1~3は数値の書き換え、4と5は検査そのものをしていなかったということだ。
信頼と負託を裏切る行為
30年以上前のことになるが、筆者は国内ディーラーの整備士として働いていたことがあるので、この項目を見るとおおよそ何が行われていたかが分かる。
リフトに上げて、ブレーキのオーバーホールをしたり、エンジンルームの整備、例えばプラグのチェックや点火タイミングやオイルの状態を見たりという、いわゆる整備士が「クルマの整備」と強く認識し、責任を感じる部分はやっていたのであろうが、リフトから下ろした後に行われる、車検のためだけに、あるいは車検のとき以外には行わないテスター測定作業が疎かになった、ということだ。
「1~3は数値の書き換え」という発表だが、テスターを通して、数字を改ざんしなければならないような結果は恐らく出ないはずなので、常識的な手順を考えると、測定を行わずに、当たり障りのない数字を書き込んだのではないかと推測する。
「そんなの車検のための形式的な作業だよね」という心の声が聞こえる気がする。実際、ライト回りをぶつけたクルマでもない限り、これらのチェックで異常が出ることはまずない。気持ちは分からないではないが、だからといって許される話ではない。
本来車検とは、国土交通省運輸支局(いわゆる陸運局)の検査場で行うものだが、自動車の普及を目指していく国策の中で、それらを全て役所がやっていたのではどうやっても手が足りないと判断された。だからこそ民営の自動車整備工場に一定の資格を定め、支局の検査場と同じ検査を漏れなく行うことを前提に業務を委託しているのだ。今回の不正はその信頼と負託に応えなかった背信行為という意味で問題がある。
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