
トヨタ自動車から一気に4車型のクラウンが発表された。筆者への原稿発注も「クラウンで」「クラウンで」と大人気である。すでに掲載した編集部からも「めちゃくちゃ読まれました」とうれしそうなメッセージが届いている。さてもクラウンは人気である。今回のクラウンの主力となるのは、この秋に発売されるクラウン・クロスオーバーで……という話は今回、全然書かない。
は?とリアクションしていただけると筆者はニンマリだ。注目したいのはクラウンのセダン(2023年以降発売予定)である。
横から見るとそっくり
デザインも色もあれこれ攻めて、セダンの新しい形を模索したクラウン・クロスオーバーに対して、古典的水平基調デザインと低い車高を維持した保守的セダンデザインを狙ったのがこのクラウン・セダンである。保守的と言いつつテールにノッチバックがないあたりは、ガチガチの保守というわけでもない。はて、しかしこのサイドビューのシェイプはどこかで見たような……。
真横からの写真を見ていただこう。そこにMIRAIの写真を並べると、もう皆さんお分かりだろう。トヨタは一言もアナウンスしないが、誰がどう見てもこのクラウン・セダンはMIRAIのストレッチ仕様である。
仮に、これが見た目通りMIRAIベースであったなら、今回4台並んだクラウンの中で、他の3車種はFF用の「GA-K」プラットフォームをベースにEアクスルを追加し、全車AWDの布陣になると予想されるのに対し、セダンだけはFRの「GA-L」プラットフォームを採用していることになる。MIRAIの兄弟車ということはすなわち、新型クラウン・セダンは、水素で走る燃料電池自動車(FCEV)である可能性が非常に高い。
もちろん世界各国でカーボンニュートラルを推進するトヨタの大方針が「マルチソリューション」であることはこの連載で再三お伝えしてきた通りなので、このクラウン・セダンに搭載されるパワートレインは、FCEVだけとは限らず、BEVモデルやハイブリッド(HEV)モデルも追加される可能性はある。実は、筆者は当初、クラウン・セダンをFCEV専用だとにらんでいたが、諸々の条件を考え合わせると、GA-Lプラットフォームを共有するレクサスLSのハイブリッドパワートレインを投入することは十分考えられるし、それだけの手を入れてくるとすればBEVのバリエーションも投入してくるとみるべきではないかと見方を変えた。
とは言え、トヨタからMIRAIに次いで第2のFCEVモデルが追加されることの意味は大きい。これまで特殊なモデルにすぎなかったFCEVが、普及期への移行を始めるという象徴的な出来事である可能性が高いからだ。
編注:電池の電力で走行する自動車は一般的に「EV」と表記されています。この場合の「電池」はリチウムイオンバッテリーなどの蓄電池(2次電池)を指すことがほとんどですが、本稿ではより厳密に、蓄電池の車両(いわゆるEV)を「バッテリー電気自動車=BEV」、燃料電池(Fuel Cell=FC)による発電で動く電気自動車を「FCEV」と表記しています
MIRAIはご存じの通り世界初の量産FCEVであり、その第2世代としてデビューしたのが現行モデルだ。700気圧まで圧縮した気体水素を、センタートンネルとリヤシート下に〒型に配置した3本のタンクに蓄え、それをFCスタックで化学反応させて発電する。
タンクにスペースを食われるため、MIRAIはあれだけ大柄のボディをもってしても、リヤのキャビンスペースはあまり充実したものにはならなかった。事実上国内唯一の、そして世界でもまれなFCEVの代表としてMIRAIの背負うものを考えれば、広大なリヤスペースよりも、「走る・曲がる・止まる」のレベルを上げること、そして開発途上にあるFCスタックの能力を最大限に活かして燃費を向上させるエアロダイナミクスこそが重要だった。MIRAIの性能が、そのままFCEVのポテンシャルとして世の中から見られるからだ。
今回のクラウン・セダンでは、とりあえずFCEVの可能性を世に問うという責務は背負わずに済む。もうこの際ボディサイズと多少の空力にはエイヤッと目をつぶってホイールベースを伸ばした。それによってようやくこのサイズにふさわしいリヤシートスペースが備わるクルマになる、と思われる。以上が筆者の予測である。本人は至極順当な予想と思ってはいるが、トヨタに問い合わせても確認は取れないので、念のため。
では、ここからが本題だ、トヨタは一体何だって、クラウン・セダン(の一部)をFCEVで仕立ててきた(と思われる)のか?
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