GRヤリス特別仕様車 RZ“Highperformance・モリゾウセレクション”(マニュアル車)。サブスク料金の一例は3年間で月々5万4340円+ボーナス加算が16万5000円(税込) × 6回(いずれも税込、写真:トヨタ)
GRヤリス特別仕様車 RZ“Highperformance・モリゾウセレクション”(マニュアル車)。サブスク料金の一例は3年間で月々5万4340円+ボーナス加算が16万5000円(税込) × 6回(いずれも税込、写真:トヨタ)

 このモリゾウセレクションは、サブスクリプションサービスのKINTOでのみ提供される特別仕様である。トヨタは「人に寄り添って進化するクルマ」という分かるような分からないような説明をするのだが、要するにアップデートでパーソナライズができるのが新境地である。

 ある程度のレベルのドライバーがレースやラリーに出るときは、当然専属メカニックのサポートを受けて、自分が走りやすく、タイムが向上するようにセッティングを出す。それがモータースポーツでは当たり前に確立されたメソッドだ。

 今や最先端のクルマは無線ネット接続のオーバー・ジ・エアー(OTA)によってソフトウエアアップデートを行う。しかしそれは一律の製品進化を提供するものでしかない。モリゾウセレクションでは、当然ソフトウエアアップデートを行いつつ、さらに駆動力配分や、ステアリングの重さ、ブレーキの効かせ方などを、保存された運転記録を元に、ドライバーに合わせてパーソナライズしようというのである。それはプロやそれに準ずるドライバーだけに与えられていた特殊なサービスの事業化である。

 しかも、解析とセッティングの提案は車両開発に当たったGR開発チームのエンジニアが直接行い、オーナーと相談して、パーソナライズレシピを決めていくという、途轍もなく手間の掛かる仰天のメニューである。

 T型フォード以来、自動車という商品は規格化による大量生産プロダクツであり、同じものを大量に造ることであれだけ複雑な機械を安価に提供できるようにしてきた。それを個人に向けてパーソナライズしようというのだから、これは自動車史をひっくり返す革命である。

そんなことしてソロバンは合うのか?

 筆者は思わず尋ねた。「そんな手間の掛かることをして採算に合うのか? パーソナライズと言いつつ、実はレディメイドのいくつかのメニューを当てはめるだけで、誇大説明ではないのか?」。それに対するトヨタの答えに再度驚かされた。

 「クルマを開発するエンジニアが、直接エンドユーザーから詳細な情報を入手することは、今までやりたくてもできなかったことで、今後の自動車開発に対して大きな資産となります。現状は開発チームだけでヒアリングと提案を行いますが、やがては取り扱いディーラー「GRガレージ」のスタッフにもそれができるように教育を進めるとともに、長期展望としては、それらの情報分析とソリューション提示をAI化することを目標にしています。そうなればオンラインによって世界中でこのサービスが提供できるようになります」

 びっくりした。つまりこのパーソナライズは、トヨタが損をしてでも客にスゴいサポートをすることが目的なのではなく、顧客の生の声を実走データとセットで入手し、研究開発に資するデータの質と量を一気に引き上げるとともに、開発チームにいるトップエンジニアの特殊スキルを、現場のディーラースタッフの一部に習得させ、さらにはAI化によって、それらを属人化スキルから解き放って、本格的にトヨタという組織の技術資産にしてしまうことが狙いだったのである。

 とはいえ、そんな操縦性のセッティングみたいなものが適用できるクルマは限られているのではないか?

 という疑問はもっともではあるが、普通に考えてパーソナライズが応用できる可能性は極めて大きい。例えばレクサスLSのようなフラッグシップモデルを想像してみよう。フラッグシップモデルなので、それにふさわしい動力性能や高速性能が必要だ。

 だからLSは高出力のパワーユニットを積んでいるし、そのユニットに釣り合うだけのアシも固めなくてはならない。それは命のかかる乗り物を造る企業の義務である。

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