5月21日金曜日の夕方、富士スピードウェイはあいにくの雨で、中断になっていたスーパー耐久シリーズ第3戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レースの予選は、そのまま中止のアナウンスが流れた。

世界初の水素エンジンで24時間レースを完走したトヨタのレーシングカー(ベースはカローラ スポーツ)(写真:トヨタ)

 予定が繰り上がってインタビューを終えると、もう今日の仕事はない。そんなわけで少し早いがホテルへ引き上げることにした。

 まずは腹ごしらえである。大体この取材の直前までこの連載の鬼担当のシゴきで書いた自動車メーカー決算6連発でヘトヘトになっていたのだ。

「あ、ここのハンバーグはきっと美味い」

 御殿場周辺にはあまり土地勘がなく、最悪コンビニ弁当かファミレスかなと半ば諦めながら、プレスルームで悪あがきのようにパソコンを叩いて検索した店の一軒にピンと来た。「あ、ここのハンバーグはきっと美味い」。ということで同業者1名と「せるぽあ」(静岡県御殿場市北久原279-1)に向かった。

 メインディッシュのハンバーグは980円。むしろ価格的にはそう期待はできない。それにコースセット(オードブル、スープ、ライスかパン、コーヒーか紅茶)を付けるとプラス1200円(ディナータイム)。メニューだけ見たときにはコースセットが少々高く感じたが、後に料理が運ばれてきてから驚くことになる。

 最初に出てきたパンと前菜は、鮭のテリーヌ。野菜にビーツとひよこ豆のトッピングで爽やかかつ品の好いアクセントが効かせてあり、テリーヌにも3種のソースとキャビアが添えられている。これが普通に美味い。いや何が言いたいかというと、こういうテリーヌは1200円のセットなんかで出てきやしない。もっと本格的な値段のコースの前菜と考えても美味いといえる本物である。

 次いでスープだ。濃厚なクリーム仕立てで、きのこと野菜がたっぷり入っている。そういう意味ではちょっとシチュー的である。この時点で気付いたのは、この店には「コースらしく体裁を整えておけばいいだろう」的発想がまったくない。単価だけ考えたら適当なコンソメに映える浮き実を散らして出しておけば、1200円のお代に誰も文句を付けないし、世の中の多数派はそうしている。

「納得のいくものを作って、喜んでくれる人のために働く」

 メインが出てきて驚いた。980円というファミレス価格であるにもかかわらず、この盛り付け。しかも添え物のひとつひとつに手抜きがない。ソースに見え隠れするきのこすら、キチンとオーブンでローストして水気が飛ばしてあるから、この状態でも焼いたきのこの香ばしさがきちんと残っている。そして何よりハンバーグのソース。2色のソースはホワイトも美味いが、特筆すべきはブラウンのソース。出来合いのデミじゃない。僅かな苦みが絶妙で、もともと美味いハンバーグの格を2段階くらいは引き上げている。いやこれはとんでもない店を見つけた。

 メインに十分満足して、さてデザートだなと思っていると、これがまた超弩級。この盛り合わせ3点のうちどれかひとつでもまったく文句は言わない。それがコレである。もちろん量で浴びせ倒す系ではなく、どれもしっかり美味い。あわせて、ホットコーヒーをチョイスした。

 どうやら夫婦2人でやっているらしき店は、おそらくは自己物件ではあるまいか。御殿場警察の並びで246号沿いという立地だから東京の飲食店の感覚からすれば土地も安いのかもしれない。だが、それでも、この値段でこのクオリティの料理を出して、地元の人に喜んでもらいながら生きていく姿勢に並々ならぬものがある。

 そこには「自分が納得のいくものを作って、食べて喜んでくれる人のために仕事をする」という信念めいたものを感じたのである。少しでも余分に儲けようとか、この値段ならこの程度で、みたいな、世間に満ちている欲の臭いとか出し惜しみが微塵もない。いい人生を過ごしているなぁと羨ましくなった。筆者も読者に喜んでもらえる原稿を書こう。

 ということで今後は富士スピードウェイの取材の際はここで飯を食うことに決まった。

 さて、本題である。筆者はもともとあまりレースには詳しくないし、強い興味もない。今回の取材のテーマは話題になったトヨタ・カローラ スポーツの水素燃焼エンジンレースカーである。

 昨年(2020年)10月26日に行われた菅義偉首相の所信表明演説以来、「EV以外は全部悪者」と言わんばかりに偏向する極端な世論を、トヨタは水素エンジンでひっくり返しつつある、と筆者は感じている。

続きを読む 2/5 内燃機関は死なず

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