厳しい決算となったのはなぜか

 当期(2022年3月期)の各社決算の中で、最も厳しい数字に直面したのはSUBARU(以下スバル)である。数字も厳しいが現状を踏まえたビジョンも見えにくい。計画そのものは発表しているのだが、それを裏付ける個別の戦術が発表されないので、自社の現状をどう受け止めて、何をどう改善していこうとしているのかがどうも分からない。

 筆者は基本的にスバルはちょっと秘密主義で、策定された計画が発表されてないだけだと思っているのだが、果たしてそういう話なのか、それとも計画が練り切れていないのか。そのあたりは、ひとまず定番のテンプレートを挟んで、発表資料を丁寧に見て分析していこう。

 以下に、今回の決算分析記事における決算期の表記定義、および各社が直面した共通の経営課題をサマリーした箇条書きのテンプレートを貼っておく。

■用語定義

前期決算:2020年4月~2021年3月
当期決算:2021年4月~2022年3月
今期決算:2022年4月~2023年3月

■当期における自動車メーカーの経営課題サマリー

・新型コロナウイルス禍によって国際分業先にロックダウンが発生し、生産が滞った結果、部品不足(半導体、樹脂製品、ワイヤーハーネスなど)が引き起こされた。

・併せて、ロックダウンした国の港で荷揚げができず、流通が大停滞。船便とコンテナの回転が共に止まり、生産には制約が発生していない原材料までが、ロジスティックの問題で滞った。

・その結果、傾向と対策が立てにくいランダムな部品不足が発生して、クルマを生産できない事態が勃発。生産ラインの停止が頻発した。

・それら複数の要因により原材料の奪い合いが発生し、輸送費を含む原材料価格が急騰した。

 これが当期の自動車製造業における中核的問題であり、それらを各社が様々に工夫を凝らして、乗り越えようとした成果が当期決算に表れている。

 まずは基本的な数字のチェックだ。スバルの場合、前期、当期、今期の販売台数から売り上げ、利益率など一式が1枚に収まっていて数字はとても見やすい。のだが、それぞれの数字に対する説明コメントが皆無。そこはあまりにもドライである。

(出所:スバル、以下同)
(出所:スバル、以下同)
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 台数からいこう。「連結販売台数」は前期の86万台に対して、12万6000台ダウンの73万4000台(85.3%)。今期見通しは20万6000台アップの94万台(128.1%)としている。

 ちょっと言葉に詰まる。まず当期実績の販売台数ダウンが他社との比較で大き過ぎる。単純に降順に並べると、三菱自動車工業(以下三菱自)が117.0%、トヨタ自動車(トヨタ)は107.6%、スズキが105.3%、マツダが100.1%、日産自動車(日産)が95.7%、本田技研工業(ホンダ)が89.6%となる。

 スバルの場合、4月にエンジンのリコール問題で国内主要3車種の生産停止が発表されたのが記憶に新しいが、これは時期的に当期決算に影響は与えない。とすれば、普通に考えて他社同様、自動車産業全体が巻き込まれた部品不足の影響と推測されるのだが、それにしてもスバルの下落率が突出した理由がよくわからない。

 一方で、現在進行中の今期の見込み販売台数の高さも気になる。エンジンリコール絡みの生産停止の影響は今期に影響するはずで、決算発表時には「リコールの影響は軽微である」と回答していたものの、軽微と言っても、問題を抱えて128.1%へのジャンプアップを見込めるものなのだろうか? 例えば、当期の生産台数ダウンの理由が明確になっており、その対策が完了して追い上げるというなら話は分からないではないのだが……。という具合で謎の多い数字である。

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