5月11日に発表されたスズキの決算は、売上高では3期ぶりの増収、営業利益で4期連続の減益となった。これだけ見るとちょっと判断が難しいところなので、もう少し追いかけると、経常利益は2期連続増益、当期純利益も2期連続増益。
営業・経常・当期の利益率はそれぞれ5.4%、7.4%、4.5%となっている。「4期連続減益」と聞けば、普通はちょっとヤバい形勢と予想するのが順当。実際のところ本業は基本防戦に努める形であるが、まだ営業利益率が5.4%もあるのを見ると、形勢不利な局面でも崩れないで持ちこたえる強さがある。というか、本音を言えばとても連続して防戦一方の数字には見えない。トヨタ自動車を別にすれば、5.4%なんて数字はここ5、6年のベストリザルトでも届くかどうかの会社もある。
前回(「日産の決算は、過去の呪縛を切り離す戦い」)の解説記事で書いた「過剰に自己演出的」で恣意的な日産の資料と比べると、素直というか飾らないというか、それだけの利益率を保ちながら、わざわざ印象を悪くする「4期連続減益」とまで書かなくてもいいんじゃないのか、そんな気がするほどだ。
決算資料から見える各社の体質
実は決算資料にはかなり各社の体質みたいなものが表れていて、それだけ見ていても面白い。スズキの資料には本当に正直な事実が手加減なく、かつ親切に書かれていて、読み解き技術もほとんど要らない。そのまま素直に読めば良い。決算資料オブ・ザ・イヤーをあげたいくらい情報源として素晴らしい。
さて売上高は3兆5684億円で前期比プラス12.3%。営業利益は1915億円で、前年比マイナス1.5%。各項目の増減の理由もちゃんと書いてある。売上高は「前期が新型コロナウイルス禍で大幅減だった」ため、当期は10%を超える大きなプラスになっている。営業利益の減益は「原材料価格高騰や減価償却費の増加」が原因。当期純利益の伸びは、「特別損益の改善(前期が新型コロナウイルス関連損失マイナス155億円計上に対し、当期は旧豊川工場跡地売却益+180億円)等により増益」と、全部書いてあって、筆者の解説の出る幕がない。
ちょっとは仕事をしないとアレなので、このページで押さえておいた方がいいのは「世界販売」における二輪車の販売台数増である。四輪車より伸びが良い。アフターコロナのニューノーマルによって、二輪が売れている。少し前まで、スズキは二輪事業の落ち込みに手が打てない状態で、「今は耐えるしかない」と言っていたのが嘘のように、マーケットが持ち直している。これはかなり大きい。
ここまで解説してきた流れを見るのに最適なグラフが「四半期毎の業績推移」で、ちゃんとコロナ禍以前からの「売上高」と「営業利益」が、しかも実数入りでまとめてある。こんな充実した資料はめったにない。
19年3月期と20年3月期がコロナ前。前期の第1四半期にコロナショックがやってきて、大きな落ち込みを見せ、それに対して以降をどう戦ったのかがよく分かる。ちなみに前期の第2四半期の盛り上がりは、第1四半期のロックダウン→減産に対しての回復生産での伸び。そこからジリジリと下げていくことから、徐々に部品不足が深刻化し、原材料価格に圧迫され利益が落ちていったさまがよく分かる。利益が落ちた割に売上高はさほど落ちていないのは、クルマそのものの需給逼迫で値引きの必要がなくなって「構成(1台当たり売上高)」が増えているからだ。だから売り上げは増加しつつ、原材料価格の高騰で利益が落ちていく。
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