始まらなかった新型車ラッシュ

 カルロス・ゴーン氏の後を継いで、2017年に急遽登板した西川廣人社長の指揮のもと、日産は2019年5月の決算発表会で、事業構造改革「ニュー日産トランスフォーメーション」を打ち出した。計画そのものは、車齢の高齢化を巻き戻し「2022年までに全コアモデルを刷新し、20以上の新型車を投入する」という意欲的なものだった。

 2022年末までの4年弱で20車種ということになれば、悠長に構えている暇はない。単純計算では毎年5車種ずつリリースしなければならないのだが、決算発表以後年内にリリースされたのは、マイナーチェンジモデルや特別仕様ばかりで、フルモデルチェンジは1台もなかった。

 日産の状況に鑑みれば、新型車投入は、可及的速やかに取り組むべき喫緊の課題であったはずが、スタートの一歩が踏み出せない。諸々のごたごたがあってそれどころではなかったことは分からないでもないが、「ニュー日産トランスフォーメーション」がようやく本格的に動き始めたのは、2019年末に内田誠社長が就任してからだ。

当期決算発表を行う内田誠日産社長(写真:日産自動車)
当期決算発表を行う内田誠日産社長(写真:日産自動車)

 今、日産を本当の意味で復活させるには、もはや価値が消えつつある旧来のモデルを退役させ、予定通り基幹モデルを早急にリニューアルし、クルマの魅力を向上させて付加価値を引き上げることが第一だ。そのためにはまず「台数を追うことよりも、値引きをせずにしっかり売ること」、つまり高付加価値販売を実現しつつ、非効率部門をカットし、コストダウンを並行して進めることしかない。台数を気にするあまり値引きを始めたが最後、また最初からやり直しになってしまう。そこがちゃんとできているかどうかが、当期の日産の決算を見る時の重大なポイントだ。

 ということで、ようやく決算分析に入る手前の日産の現状の説明が終わった。定番のテンプレートを挟んで、個別の分析に入る。

 以下に、今回の決算分析記事における決算期の表記定義、および各社が直面した共通の経営課題をサマリーした箇条書きのテンプレートを貼っておく。

■用語定義

前期決算:2020年4月~2021年3月
当期決算:2021年4月~2022年3月
今期決算:2022年4月~2023年3月

■当期における自動車メーカーの経営課題サマリー

・新型コロナ禍によって国際分業先にロックダウンが発生し、生産が滞った結果、部品不足(半導体、樹脂製品、ワイヤーハーネスなど)が引き起こされた。

・併せて、ロックダウンした国の港で荷揚げができず、流通が大停滞。船便とコンテナの回転が共に止まり、生産には制約が発生していない原材料までが、ロジスティックの問題で滞った。

・その結果、傾向と対策が立てにくいランダムな部品不足が発生して、クルマを生産できない事態が勃発。生産ラインの停止が頻発した。

・それら複数の要因により原材料の奪い合いが発生し、輸送費を含む原材料価格が急騰した。

 これが当期の自動車製造業における中核的問題であり、それらを各社が様々に工夫を凝らして、乗り越えようとした成果が当期決算に表れている。

次ページ どこかモヤっとする決算資料