カルロス・ゴーン氏は、日産の社長に着任して以来、コストカットの大ナタを振るい。青息吐息だった日産をV字回復させた。そこを緻密に説明し始めると原稿が終わらなくなるので、とりあえず「彼の得意技はコストカットだった」とだけ覚えておけば良い。

 日産の救世主となったカルロス・ゴーン氏は、その実績を引っ提げて親会社であるルノーの社長を兼任する。親会社の都合としては当然ルノー優先となるのは誰でも想像が付く。ところがルノーは日産とはブランド価値が競合する。ルノーの世界戦略を考えると、日産には少しブランド価値を下げさせて、競合を避けておきたい……。

 グループ全体で見ると、ルノーには主に欧州・中東向けのディフュージョンブランド(上品に言うなら、普及することをより重視したブランド)であるダチアがある。そこで日産にもディフュージョンブランドとしてのダットサンを立ち上げさせ、少しずつ重心を日産からダットサンへ移して、アジアの新興国を受け持たせる、という企画が持ち上がった。

欠けたることもなしと思へば

 まことにくだらない。藤原道長でもあるまいし、そんなに何でもかんでも自分の都合で世の中を変えられたら苦労はない。日産は日産としての魅力でマーケットに受け入れられていることを軽んじすぎたアイデアである。

 しかも、新興国ブランドとしてダットサンを立ち上げるのには金が要る。その金を捻出するためにミスターコストカッターは、日産の新型車開発を凍結した。まずは日本で、次に世界中へそれを拡大した。

 それでもこの皮算用がうまく行けば良かったのだが、2012年から投資を拡大して新興国向けに立ち上げたダットサンブランドは失敗に終わった。インドネシアの工場は2020年に畳み、全ての計画は終了した。後に残ったのはそのために犠牲になった日産の「高齢化した商品群だけ」という救われない話になった。

 日産は、高齢化著しい自社商品を何が何でも売るために、レンタカーなどの法人向け大口販売(フリート販売)に力を入れる。大口顧客相手のフリート販売は落ち込んでいる台数を短期で引き上げる効果がある。

 自動車メーカーの経営で最も大事なことは工場の稼働率を高く保つことである。過去の常識で言えば、少なくとも80%以上の稼働率で回したい。これが5%も落ちたら、赤字へ真っ逆さまということは普通にある。だからフリートで安売りしてでも工場の稼働率を維持したいが、大口という性質上、当然値引きを求められ、利益は薄くなるし、安く大量に売れば付加価値を毀損する(最終的に安い値段で中古車市場に大量に流れる)のは当然の流れだ。

 他社の動向を見れば、高付加価値販売を実現するために、トヨタやマツダが必死でフリート販売から脱却しようとしている最中である。日産は日産らしいビジネスを順当に続けていけば良かったものを、政治的な都合で、ダットサンへのシフトを画策し、勝手に転んで、泥縄式にフリート販売で辻褄合わせをしようとして傷を広げた。

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