スズキは日本の自動車メーカーの中で特異な存在だ。母国日本のマーケットは他社同様にしっかり持っているのだが、大概の日本のメーカーが主戦場にしている北米と中国では、実質的に商いをしていない。
異色の日本メーカー、スズキ
少し脱線をさせてもらえば、日本の自動車メーカーが世界で活躍できている原動力は、複数の母国を持っているからだ。
少し乱暴かもしれないが、北米のメーカーは北米だけで商いをし、欧州のメーカーは欧州で商いをする。米国と欧州のメーカーは、それぞれ欧州と米国へ進出を試みたものの、ことごとく失敗した。例外は欧州フォードくらいか。だが、英国フォードとドイツ・フォードを置いたものの、互いに見事なまでにシナジー効果が得られず、後に戦略的に強引にドイツ・フォードを存続会社として統合した。だが、同社は今やほぼ欧州の自動車会社となっていて、本国である米国のフォードとのシナジーは全く生み出せていない。日本のメーカーと引き比べた時に、成功としてカウントできるかどうかは疑わしい。
日本のメーカーだけが、北米への本格進出を果たし、売りまくった末、日米自動車摩擦を経て、両国の落としどころとして現地生産に乗り出した。その結果、経済に貢献するという意味でも、商品をきちんと売れるエリアを持つという意味でも、2つの母国を持つに至ったわけだ。
今世紀に入り、中国マーケットが勃興を始め、やがて北米を抜く世界最大マーケットへと成長した。日本と欧州メーカーの一部は、この中国へ進出することで新たな母国を獲得し、世界的な競争の構図が大きく変わったのである。例えば独フォルクスワーゲンは欧中を母国にするようになった。そして2つあるいは3つの母国を持つ自動車メーカーの間で熾烈な戦いが繰り広げられることになったのだ。
主観的独断的に言えば、トヨタは基本日米、ホンダは日米中、日産も日米中、マツダは日米豪、スバルは日米、三菱自はかつては日米だったが今は日本とASEAN(東南アジア諸国連合)。そしてスズキは、日印に加えて、現在アフリカを開拓中である。異論はあるかもしれない。例えばトヨタもマツダも中国でだって売っているのだが、色々取材していると、ちょっと他社とは温度感が違うのだ。そこは細々して長い話なので割愛する。
要するにほとんどの日本の自動車会社は、米中の経済変動に多大な影響を受ける。そして当該期の景況はどちらも芳しくなかった。ところが、スズキだけは世界の2大マーケットの動向に全く影響を受けない。スズキもかつては中国にも進出していたが、顧客の嗜好がより大きく豪華なクルマへとシフトしていくと、早々と見切って資本を引き上げた。
そうして、インドという次世代マーケットに全てのリソースを集中することで、300万台メーカーへと駆け上がっていったのだ。
という話を読めば、賢明なる読者諸氏はすでにお分かりの通り、米中のマーケットが荒れ模様の当該期(2023年3月期)決算の中で、スズキは悠々と好決算を発表してみせた。
まずは基礎的数字を見てみよう。
世界販売台数(カッコ内は対22年3月期、以下同):300万台(110.8%)
売上高:4兆6416億円(+1兆733億円)
営業利益:3506億円(+1591億円)
営業利益率:7.6%(+2.2ポイント)
当期純利益:2211億円(+608億円)
全部プラスの増収増益となった。
しかも売上高、経常利益、当期純利益の3項目で過去最高。営業利益も過去2位。経営陣は祝杯モノの決算である。
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