さて、前回で、当期決算を見るに当たってのポイントを詳細に解説した。今回からいよいよ個社の決算解説に入る。どの社から始めるか色々考えた。今回の決算では割と明瞭に「勝ち組」と「負け組」が分かれた形なので、可能なら「標準」になりそうな1社を最初に解説して、それを物差しに他を解説したかったのだが、そういう都合のいい決算結果の会社は存在しなかった。
なので、圧倒的にうまく立ち回ってみせたトヨタ自動車(以下トヨタ)から始めたい。人によっては推しのメーカーが「トヨタと比べられても」と思うことは容易に想像できるが、成功の理由を説明するより失敗の理由の説明の方がより難しい。成功は数字から導きやすいけれど、失敗は数字だけでは分からないからだ。なので成功例との比較をベースにそれぞれの理由を考えていきたいと思う。
ということで、まずは当期決算(前の記事のとおり、2022年3月期を指す)で各社が直面した経営課題を簡潔に書いておく。
・新型コロナウイルス禍によって国際分業先にロックダウンが発生し、生産が滞った結果、部品不足(半導体、樹脂製品、ワイヤーハーネスなど)が引き起こされた。
・併せて、ロックダウンされた国の港で荷揚げができず、流通が大停滞。船便とコンテナの回転が共に止まり、生産には制約が発生していない原材料までが、ロジスティックの問題で滞った。
・その結果、傾向と対策が立てにくいランダムな部品不足が発生して、クルマを生産できない事態が勃発。生産ラインの停止が頻発した。
・それら複数の要因により原材料の奪い合いが発生し、輸送費を含む原材料価格が急騰した。
これが当期の自動車製造業における中核的問題であり、それらを各社が様々に工夫を凝らして、乗り越えようとした成果が当期決算に表れている。
つまり、厳しい環境下で、不足する原材料をどうやって調達したか? そしてその限られた原材料で生産したクルマをいかに高い利益率で売ったか? が、決算の勝敗を分けたのである。
日本以外は全て販売増
トヨタの決算を連結販売台数から見ていこう。ポイントはコロナ禍初年度である前年対比で伸びているか、コロナ前の水準にどの程度近づいているか、の2つだ。トヨタの決算資料では、前期の764万6000台に対して、当期は823万台。前年比107.6%の成長。流石である。
注目すべきは地域別の数字で、日本だけは10%ほど減っているが、他の地域は全部プラス。こういうところでトヨタらしい手堅さが出る。厳しい環境でも戦線全体が崩壊しない。一方で、やはりASEAN(東南アジア諸国連合)からの部品供給問題で国内生産が苦しんだことは結果に表れている。つまり、こと生産台数に関して、積み残した課題は現状から見る限り「国内生産の部品供給をどう解決するか、だけ」という言い方もできる。
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