大事な順に並べたラインをどこかで足切りして、影響の大きい要素に絞り込み、スーパーコンピューターを使って徹底的にシミュレーションを行い、最適化あるいは理想化してしまう。この軸ができてしまえば、その社のエンジンの基本レシピができたも同然である。その大原則を崩さないようにして新設計や改良を行えば、開発の大ハズレはなくなるし、手間も減る。大事な部分に絞って最初に手間をかけることで、結果としてそのエンジンのシリーズ全体の開発はローコストになるのだ。

 最も大きい利得は、ニーズや法規制が異なる仕向け地ごとの制御プログラムの合理化である。今や金物部品の設計コストは十分に低くなっているが、むしろ制御側はCASE対応なども含めて、年々要素が増えて複雑化する。この制御プログラムを仕向け地ごとに設計し、ゼロから書いていたのでは手がいくらあっても足りないのだ。

 マツダの例でいえば、エンジンの仕向け地別のプログラムはほぼ8割方共通にでき、ローカライズの工数が大幅に削減可能になった。そこで人手と金というリソース消費が落とせたのである。

 という部分に手を付けず、生産設備投資を先行して、それに合わせたペースで開発しろと言われた現場は疲弊が進んだ。基礎設計がバラバラな無数のユニットを全部個別に再開発しなければならない。

無理な開発ラッシュが与えたダメージ

 ここはよく勘違いされるが、ブロックを含むエンジンの部品が共通であろうとも、例えば「吸気管容積と燃焼室容積比」などの燃焼を決める要素がバラバラならそれは別物のエンジンで、基礎設計はまったく違う。また、排気量の異なるエンジンに同じ吸気管を使ったりすると、共通化できなくなる。吸気管を再設計してでも容積比をそろえることのほうが重要なのだ。

 そういう無理がたたった結果、品質問題が頻発して600万台計画は頓挫した。伊東氏の後を受けた八郷隆弘前社長は、600万台計画を白紙撤回し、設計の合理化に着手した。しかしその合理化が花開く前に退陣となり、いま三部敏宏社長の下で、その新時代エンジン群がデビューする……かと思ったところで、突如「内燃機関撤退宣言」が発表されたところが現在地である。

 さてこれらはホンダの決算にどういう影響を与えているのだろう?

[画像のクリックで拡大表示]

 概要からだ。矢印を挟んで、2020年3月期と2021年3月期。続いて差分である。

  • 売上収益:14兆9310億円→13兆1705億円 マイナス1兆7604億円
  • 営業利益:6336億円→6602億円 プラス265億円
  • 営業利益率:4.2%→5.0% 0.8ポイント増
  • 税引き前利益:7899億円→9140億円 プラス1241億円
  • 二輪販売台数:1934万台→1513万2000台 マイナス420万8000台
  • 四輪販売台数:479万台→454万6000台 マイナス24万4000台

 ということで、減収増益の決算となった。立派な結果だ。このシリーズではもう何度も書いているのでいいかげんしつこいかもしれないが、世界的な経済ショックをもたらした新型コロナが猛威を振るう中で、増益の決算が出るとは筆者はまったく予想していなかった。