筆者が、昨年4月、つまり21年3月期の始まりに、一般論として自動車メーカーの業績見込みをどう考えていたかといえば、1Qは壊滅。2Q真っ赤、3Qで回復の兆しを見せて、4Qで赤黒トントンと見ていた。この見方の延長では、各メーカーの戦績は減収減益はもちろん、赤字決算がデフォルトである。

 ものスゴく善戦したら達成できるラインは、前半期でつくった赤字を、後半期の目覚ましい回復で埋めきるかどうかにかかる。それでも相当に難易度が高いと見ていた。

 結果が開示されてみれば、マツダはちょうど筆者予測の「ものスゴく善戦」にぴったりハマった。しかも税引き前利益で22億円とはいえ黒字に振っている。このあたりは特別損失のカウントの仕方にもよるので、まあ本当にギリギリだったことはうかがえる。しかし、この悪夢の年を転覆することなく舵を取りきって、とにもかくにも黒字に収めたマツダの決算もまた健闘である。加えて、決算プレゼンテーションの端々に彼らが必死に頑張った形跡が残されていて、筆者は少し感動すら覚えた。数字はともかく、いい話だなぁという意味でいい決算である。

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 さて中身を検証しよう。大事な資料「営業利益変動要因」である。20年3月期の営業利益436億円から21年3月期の着地点である88億円への増減要素を見ていこう。

単価上昇はまだ効果を発揮せず

 左から「台数・構成」。これの落下はすさまじい。ここで1085億円も落としている。理由は明白。コロナ禍だからである。

 日産の決算分析のところで説明したのだが、市場の顧客が保持している自社ブランド車両の資産価格をどうやって上げていくかは、日産より一足早くマツダが取り組んで来た最重要課題で、大変難しいチャレンジながら、その成果を順調に挙げていたところである。

 つまり台数はともかく、1台当たりの単価は上昇傾向を続けていたはずで、利益率の高い商品構成への改善によってどの程度下落を防げるかが課題だった。トヨタはこれがうまくいったから、この費目のマイナスを抑制できた。マツダもそこまで持っていければよかったのだが、残念ながら1台当たり単価の向上は、台数の落ち込みに対して焼け石に水だった。素の数字だったらもっと悪いのかもしれないが、1台当たりの単価上昇が明確な防波堤になった形跡はあまり見えない。

 「その他 販売関係」でのマイナス226億円は、環境規制対応費用が大きい。これはいわゆる欧州のCAFE規制と北米のZEV(ゼロエミッションビークル)規制の未達に対するクレジット(実質的な罰金)がダブルで掛かるようになったのが主因だ。

 CAFEと違って、ZEV規制はメーカートータルのCO2発生量は全く関係なく、単純に販売台数の内一定割合をEV(電気自動車)またはPHV(プラグインハイブリッド車)にするという規制だ。日本の自動車メーカーにとってより難しかったのはCAFEの達成で、実際そちらの方が地球環境保護への貢献は大きい。なのでどのメーカーも戦力をCAFE対策に集中投入した。

 ところが、そうしている間にZEV規制の義務比率の割合が年次で徐々に無視できない台数に増えてきた。18年には販売台数の4.5%で良かったものが、21年には12.0%まで膨らみ、25年には22.0%まで増える。さらに大メーカーのみを対象にスタートした規制が、マツダやSUBARUといった中規模メーカーにまで適用が広がってきた。

 ZEV規制は、販売台数の内EVとPHVの比率を定めるものなので、その種の製品がないとどうにもならない。昨今国内メーカーが、いよいよEVのリリースを開始し始めた理由は、ZEV規制対策である。