「お前がいた地球には月がいくつあった?」
 「何バカなこと言ってるんだ。2つに決まっているだろう?」
 「!!」

 SF系というか昨今の「なろう系」と呼ばれるライトノベル(語源はこちら)でよくある、パラレルワールドから転生してきた登場人物が、自分の常識が通用しない理由に気付くシーンである。

 2021年3月期の国内自動車メーカーの決算は、トヨタ自動車(以下トヨタ)だけが明らかに異世界転生系である。それもいわゆる「主人公補正強すぎ系」。これでピンと来ない人には、どう言えば分かりやすいだろうか?

 米メジャーリーグで、ほぼ前代未聞の「一流投手で主力打者」という二刀流を掲げ、米国野球史を書き換える歴史的活躍を続ける大谷翔平が、能力そのままでパラレルワールドの日本に転生して小学生に。

 当然のごとく、投げても打っても大活躍。リトルリーグのあらゆる強豪チームを、彼らに付き添うお母さんたちが泣き崩れるほどになぎ倒し、無双過ぎてネットで「ご都合主義ストーリーにもほどがある」と炎上。せめてライバルチームにイチローが転生でもしてきてくれないと物語が成立しない。もうそのくらいの感じなのだ。

 すでにSUBARU(以下スバル)と日産自動車(以下日産)の決算記事を書いたので読み比べていただきたいのだが、スバルはコロナ禍の厳しい局面を利益半減に食い止めてよく戦いきったし、日産にいたってはそもそも深刻な経営危機の最中に、コロナ禍を迎えるという泣きっ面に蜂の過酷過ぎる難局を迎え、それでも着々と戦える体勢へと準備を進めた。

 両社とも大いに評価すべき結果である。ところがトヨタと並べたら、色褪せるどころか、色そのものが消えてしまうくらいの印象になる。トヨタは売り上げこそ落としたもののなんと増益決算である。どうかしている。

 今回、各社の決算を毎日連続で書くという無茶な仕事を引き受けてよかったと思う理由は、筆者がいくら説明しても今回のトヨタの業績の無茶苦茶ぶりは、単独記事では伝わらないところにある。他社の決算と比べてもらって初めてその「浮いている」具合が分かるだろう。

 図の赤枠で括られた数字が2021年3月期、右隣が2020年3月期である。億円単位でまとめられた数字は慣れてないと読みにくいかもしれないので、分かりやすく書き直しておこう。矢印を挟んで前年→当年、そして差分である。

  • ・営業収益は29兆8665億円→27兆2145億円でマイナス2兆6519億円
  • ・営業利益は2兆3992億円→2兆1977億円でマイナス2014億円
  • ・ちょっと飛ばして税引き前利益が2兆7929億円→2兆9323億円でプラス1394億円
  • ・営業利益率に至っては8.0%→8.1%と0.1ポイント積み増し。

 最後に決算資料の別ページから販売台数を抜き出しておこう。
・895万5000台→764万6000台で130万900台ダウン  だ。

 ピンと来ない人は来ないかもしれないが、色々おかしい。

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