ブランド回復の歯車は回るのか

 だが、幸いなことに後任の内田誠社長はそれを断行した。図を見れば明らかなように、日産は11車種もの新型車を発表または発売して、再生への第一歩を踏み出した。もちろん売り上げも利益も欲しいのは山々だが、まずはブランド回復の歯車が回り始めないとどうにもならない。数字を考えるのはそれからだ。

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 歯車は回っているのかどうか。それを表すのが、販売実績の図である。全需、つまり自動車全体の販売増加が2%であるのに対して、日産は18%の伸びを実現してみせた。コロナ禍で指標が錯綜する混乱期でなければもう少しすっきりしたデータが⽰せたのであろうが、苦しい中でのいちるの望みとして、他社平均より明確に高い伸びを示せたのは朗報だろう。

 ただし、それを相変わらずの値引きで実現していたとすれば意味は薄い。そこを判定するのが「選択と集中:販売の質」だ。この図を見ると、台当たりレベニューレート(利益率)がクオーターごとに、それは新型車投入によっていう意味になるだろうが、右肩上がりに伸びていることが分かる。また販売奨励金の対売上高比率を見ると、1.6ポイントではあるが下がっているように見える。

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 余談だが、日産の決算資料はどうも微妙に曖昧なところがあって、クオーターごとのグラフに目盛りが入っていないあたりや、注釈を見ると「中国合弁会社持分ベース」とあり、全体の話ではなさそうなところなど、眉にツバを付けたくなる表記が多い。日産の場合、最大マーケットは中国なので、中国を例に取ることに理が無いわけではないが、厳密な話をすれば、中国では現地企業との合弁経営なので、利益も損失もおおよそ半分しか日産本体には還元されない。それを小さな字で中国合弁会社持分ベースと書いただけなのは投資家に対してフレンドリーとは言えない。

 普通なら、グローバルトータルか、業績への影響が最も大きい北米を例に示すべきだと思う。未来の伸び代は中国だと思っているのか、北米の数字が都合が悪いのかは分からないが、読んでいてどうも釈然としないところがある。それでもまあ一応は下がっているということなので改善はしていると見ておく。

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 これだけの弱り目の中で新型車への総入れ替えを図るとすれば、常識的に考えて資金が心配なところだ。そこで事業規模の縮小でダイエットを行った。従来の年間720万台規模から540万台へと生産台数を絞り込んだ。明確な意志を持って台数を引き下げたわけだ。

 好ましいところは、いわゆるデューディリジェンスに基づいた不採算部門の切り離しが行われているところで、そこそこうまくいっていたはずの日本マーケットにしわ寄せをかぶせるような以前のやり方とは考え方が異なり、商社出身の社長ならではの手腕に見える。

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