日産自動車が2021年3月期の決算発表を行った(5月11日)。非常に厳しい状況で迎えた昨年の決算から起死回生の作戦を立案した日産、多くの注目が集まるところだ。
まずは大枠からだ。売上高は2020年3月期(日産の資料では19年度と表記、以下同)の9兆8789億円に対して、21年3月期はマイナス2兆163億円の7兆8626億円。営業利益はマイナス405億円から、1102億円減らしてマイナス1507億円。減収減益である。
これを見て「さらに悪化している!」と思うのは早合点である。日産の状況は1年や2年のテコ入れでどうこうなる状況ではそもそもなかった上に、コロナ禍の直撃も被っている。むしろここで回復したら奇跡である。
これまでの日産がどういう判断ミスでここまでの状況に追い込まれたかを知っておかないと、全体像が分からない。ご存じの方も多いと思うが、まずはそこから説明したい。
新車開発を絞る愚を繰り返した両社長
日産は2012年ごろから、国内での新型車発売を極端に減らした。ルノーとのアライアンス全体の利益を図る中で、ゴーン前々社長は、日産の役割をアジア新興国地域と北米に集中させ、アライアンス内での日産のヒエラルキーを下方に移行しようとしていた。
アライアンス全体の新興国向けブランドに「ダットサン」を擁立し、その新興国戦略のコストを捻出するために、日本マーケットが新型車の投入を凍結する形で犠牲にされたのだ。
それで、せめてダットサンブランドが予定通り立ち上がれば救いもあったのだが、これが失敗する。筆者は「ITmediaビジネスオンライン」に書いた2015年の記事で「(新型車投入抑制によるコストダウンは)たいへんな悪手である」という指摘をしていたのだが、こともあろうに日産はモデルチェンジの間引きを北米にも適用し始めた。
さらにクーデターで政権を奪取した西川廣人前社長は、一刻も早く社長としての業績を作り、自らの基盤を確立するために目先の売り上げを重視した。彼は社長に就任する際に「22車種の新型車を投入する」と打ち上げたはずが、一向に進まなかった。短期間に利益を回復させるには、新車開発の経費を減らし、既存のクルマを売る方が手っ取り早い。
その結果、日産はショールームに行くと「このクルマ、何年の発売だっけ?」という印象のクルマしか置いていない状態になった。競合各社は当然新型車をデビューさせているので、それらと戦うには値引きを積むしかなくなる。
するとどうなるか? 古くて商品に魅力がない → 値引き → ブランド価値の毀損 → さらなる値引き → それでも売れない → レンタカーなどの大口顧客に押し込む → 利益が激減、という流れである。
この中で最も恐ろしいのはブランド価値の毀損である。日産のロイヤリティユーザーが所有するクルマの査定が新車の値引きに蚕食されて、どんどん落ちていく。下取りが下がれば、新車の購入グレードが下がる。それならまだマシで、最悪の場合、下取り額に期待を裏切られて、乗り換えを諦め、査定ゼロになるまで乗りつぶしてしまう。つまり買い替え需要の基盤を破壊してしまうのだ。
ロイヤリティの高いユーザーの次の新車購入が滞り、あるいは安いモデルに下方移行してしまう。この期間、日産は短期の数字作りにまい進した結果、自らの未来を全部先食いしてしまったということだ。
だから「日産を復活させよう」と思うならば、カタログに載っているモデルを全部入れ替えて、値引きのイメージを覆し、値引き無しで売るしかない。一度負のスパイラルに入ってしまった流れを逆転させなければ生き残ることができない。
魅力的な新車の大量投入が復活への最初の一歩であるはずが、西川社長時代は、それが全くの口先だけで、一向に新型車はデビューしなかった。
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