2050年のカーボンニュートラル実現を目標にしつつ、着実な成長を成し遂げる。そのためにマツダが造りあげた戦略モデル第1弾が「CX-60」だ。

このほどマツダはCX-60のプロトタイプをお披露目した。後に続くCX-70、CX-80、CX-90とともに「ラージプラットフォーム群」として、2022年秋から23年にかけて順次デビューする。
当連載では、2021年11月24日から10回連続でマツダの専務執行役員、廣瀬一郎氏にインタビューを掲載した。マツダの中期経営計画をたたき台に行ったそのインタビューは、マツダの近未来戦略を網羅すべく行ったもので、CX-60が登場した今振り返ると、極めて興味深く、示唆に富んでいる。(※連載記事一覧はこちら)
そこで大変僭越ながら、その際に廣瀬専務が答えてくれた諸々が、実際のクルマに乗ってみてどの程度現実になったのかを検分してみたい、というのが今回の企画である。
中期計画の変更点を受けて
まずは中期経営計画の基本部分からだ。マツダは中計を途中で変更しているが、そこにはマツダをはじめとする日本の自動車メーカーが、グローバルなカーボンニュートラル政策の嵐に振り回され、その嵐の行く末をどう見定めたのかが、よく表れている。インタビューから引用する。
マツダ 専務執行役員 廣瀬一郎氏(以下、廣瀬):最初に中計を設定したときからみると、かなりの環境変化が生じていて、昔立てたシナリオのままではいけないじゃないかと。コロナ禍であったり、カーボンニュートラル政策の流れに大きな変化があったり、それを受けて達成年次も変わってきているので、そのままにはしておけない。ということで、諸々の環境変化を見込んで再設定をしました、と。
池田:変更が必要になった理由として、最もクリティカルだと思われたのはどこですか。
廣瀬:修正済み中計で想定しているように、仮にBEV(バッテリーEV、純粋に電池のみで動くEV、以下EV)化25%の世界が2030年に来たとしても、EV一本足で収益を確保していけるわけではないでしょう。ここまでで池田さんと話し合った懸念の通り、バッテリー価格の高騰を考慮すればEVで厚い利益を確保するのは難しくなります。そう考えると、残り75%の「内燃機関+電動化技術」がやっぱり稼ぎ頭になるはずです。だから誠実に分析すれば、やっぱり内燃機関系で稼いでいかなきゃいけないですよねと。
EVの部分の25%の利益率が読めない情勢に加えて、本来手堅い利益があるはずの内燃機関系もEVに切り替えた分だけ台数が減ります。そういう環境下で、今の利益と同等以上に稼いでいこうとしたら、やっぱり堅実な成長を担うのは、ラージ系ということになりますね。ラージ系の収益力を高めることなしに、利益を維持していくことは難しいです。ここがキーだと。
池田:この先、ラージが勝負どころだと考えると、マーケットとしては、マツダにとって最大の市場である米国、そしてオーストラリアが決戦場になる、という見方でだいたい合っています?
廣瀬:だいたい合っています(笑)。特に台数の多い米国はやっぱり、人のサイズとともにクルマのサイズと馬力が、ずっと上がり続けてきたわけです。それが嗜好の中心にあって、商品選択の中心にもなっているので、そこのニーズにはやっぱり応えていきたいわけです。米国への6気筒投入戦略は、本質的にはブランド価値の向上を目指す戦略です。ラージプラットフォームでクルマの価値を向上させるのに先駆けて、数年がかりで米国の販売チャネルの整備もやってきまして、今ちょうどようやくその成果が出始めているところです。
まずはここまで。マツダは常に自己評価として、「人もお金もない小さい会社」だと言い続けている。一般論として言えばマツダは立派なナショナルカンパニーであり、大企業なのだが、巨大自動車メーカーがひしめく世界で戦っていくことを考えると、ベスト10圏内に入ることは、まあ、ない。だから身の丈をわきまえ、弱者の兵法で行くしかないと腹を括って、マツダのこの10年の戦略がある。当然、戦略的に攻めるマーケットは絞らざるを得ない。「それがどこかと言えば米国市場である」と、ハッキリ言ったわけだ。
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