連載の第1回「菅総理の『電動車100%』をファクトベースで考える」で、CAFEに対応するアプローチは2つあって、環境的に100点満点(制度上の見なし数値。これは計算方法がLCA=ライフサイクルアセスメントになれば通じない)のEVを主軸とする、VWが代表するやり方と、満点は取れないが平均点を超えるHVを主軸とするトヨタのやり方がある、という話をした。

 現状ルールでは、EVはCO2排出量ゼロで、対するHVは良くて1キロ走行あたり70グラムを切るくらい。普通に考えれば満点のEVのほうが優秀だが、補助金付きでも売れない。満点戦術でEVを作ったVWは約130億円の罰金を支払い、まさに手段を目的に先行させた結果となった。

 一方、トヨタは満点こそ取れないものの、2020年規制では平均点以上のHVを主要マーケットで販売台数の4割から5割も売ってCAFE規制をクリア、「この成績なら、台数が出ないスポーツモデルが足を引っ張っても平均値に影響なし」とばかりに、涼しい顔でスープラやヤリスGR4などのスポーツモデルをリリースする余裕っぷり。

 ここで欧州が何に失敗したかをもうすこし俯瞰的に見ると、パリ協定の2030年目標と2050年目標をごっちゃにしているところに原因があったのではないか。

 2030年目標は「CO2のトータル排出量を概ね半減させること」が目標であり、求められるのは半減までの速度感である。対して2050年目標は「CO2排出量を限りなくゼロに近づけること」にある。HVでは2050年目標には到達できないだろうが、EVでは2030年目標には間に合わない。その区別と技術の使い分けができてないのだ。

トヨタは冷徹にそろばんをはじく

 世界中のメーカーは数年前にはこの勝負の行方はわかっていた。それはそうだ。販売状況が見えてくれば、誰でもわかる話である。その結果、各国のメーカーが水面下でトヨタに「HV技術を売ってくれ」と交渉を始めたのだ。トヨタの幹部に聞いたところによれば、こうした問い合わせがあまりにも多いため、トヨタは2019年4月に、HVの特許を無償公開するとともに、HVのシステム外販部門を設立し、500人の専属エンジニアを配置した。

 トヨタのHVシステムをエンジンごと提供するなら話は早いのだが、各社にもプライドがあり、自社製エンジンとトヨタのHVシステムを組み合わせたいと言う。エンジンとモーターシステムの摺り合わせ開発は片手間でできる業務ではないので専属部署を作ったのだ。

 当時、「すでに5年先までの仕事は予約で埋まっており、売り上げ規模は1000億円」と件の幹部は予測していた。「この仕事は儲かるわけじゃないです。しかしトヨタのシェアは世界中でせいぜい11%とか12%くらいしかないんです(世界シェアをそれだけ取っておいての言いぐさに筆者は吹いた)。地球環境を早急に改善するには残る80何パーセントの人達にも一緒に頑張ってもらわないといけない。だからわれわれは世界中の自動車メーカーの平均点引き上げ(CO2的には引き下げ)に協力しなくてはならない、と思うのです」と言う。

 ちなみに、この「開発仕事」をトヨタは世界中のエンジニアリング会社に外注化するつもりでいる。トヨタが例に挙げたわけではないが、IAVとか、リカルドとかAVLとかマグナとかそういうエンジニアリング会社は世界中に沢山あって、各メーカーから様々な開発仕事を請け負っている。彼らにエンジンとハイブリッドシステムの摺り合わせ技術を伝授すれば、対応に速度感を求められる中、トヨタが請け負い切れない仕事は彼らが進めてくれるという寸法だ。

 もちろんトヨタは慈善事業はしない。最低限の利益は部品収益や開発請負から得ると言うが、その事業を拡大したいほど儲かるわけではないのは、エンジニアリング会社に業務を振ろうとしている話からも想像できるだろう。

 余談が長くなった。

 それにしても、なんぼなんでも欧州がそんな愚策を連発するなんて、と思うかもしれない。欧州は環境・安全技術のトレンドセッターだ、と感じている読者の方も多いはずだ。

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