ディーゼル車乗り入れ禁止は「欧州のNOx規制が緩かった」から

 温暖化対策としてディーゼル車が大量に走り回るようになった結果、2013年ごろから、パリやロンドンといった大都市の大気汚染が酷いことになった。光化学スモッグである。最悪の時期にはエッフェル塔の頂上が見えないほどだとちょっとした騒ぎになり、当時の外紙がその異様な風景を伝えている

 都市圏として世界最大の人口を持つ過密都市・東京では、ディーゼルエンジン搭載のトラックが多数走り回っているが、空気は諸外国に比べて圧倒的にキレイだ。これは1970年代からのNOx規制に加えて、石原慎太郎東京都知事時代にPMの厳しい規制を施行したことが大きい。要するに先んじてちゃんと規制をしてきたからで、やるべきことをちっともやってこなかった欧州との差がここに出た(1999年に「ディーゼル車NO作戦」がスタートし、規制は2003年10月から実施)。

日米欧のディーゼル乗用車の排出ガス規制の推移(図は環境省の資料より転載、オリジナルは<a href="https://www.env.go.jp/air/report/h21-01/ref3-1.pdf" target="_blank">こちら</a>)
日米欧のディーゼル乗用車の排出ガス規制の推移(図は環境省の資料より転載、オリジナルはこちら
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 欧州は自らの不作為をカバーせざるを得なくなり、やむなくEURO6規制(2014年9月~)で、ようやく日米並みのNOxとPMの規制を追加したのだが、元よりそれだけの技術を積み上げて来なかった欧州の一部の自動車メーカーは、急激な規制強化(NOxで6割減)に追いつけなかった。

 そこで、不正なプログラムで測定結果を誤魔化した。これが、2015年に明るみに出たフォルクスワーゲン(VW)のディーゼルゲート事件である。NOxとPMをまき散らし、内燃機関全体の大幅なイメージダウンを引き起こした。

ディーゼルゲートでEVが緊急登板?

 「欧州では、大都市への内燃機関の乗り入れ規制が始まった」と聞くと、たいへん先進的、前向きな取り組み、というイメージになると思う。

 しかし「都市部で使うと光化学スモッグを起こすような内燃機関を未だに使っているので、乗り入れを規制する」というのが、筆者に言わせればより実態に近い。「日本が1970年代に解決済みの光化学スモッグ問題が、今頃深刻化しているのか、なんと時代遅れな」としか思えない。

 規制すべきところをゆるゆるにしていたEURO5(2009年導入)までのディーゼルエンジンと、不正プログラム搭載のEURO6対応ゴマカしエンジンの結果を見て、内燃機関全般にアレルギー反応を起こす。かようなことはわが国では「羮に懲りて膾を吹く」と言う。科学的に、原因を特定して手持ちの技術で排除すればいい話を、ヒステリックに「もう全部禁止です!」と叫んでいるにすぎない。

 欧州は環境意識が進んでいるのではなく、日本より40年も遅れているのではないか、と考えてしまう。

 ということで頼みの綱だったディーゼルを、自らの不正でお家断絶状態に追い込み、困り果てた欧州は、本当はハイブリッド車(HV)に進みたかったのだが、こっちはトヨタの特許で身動きが取れない。やむを得ず、育成段階にある次のエースを緊急登板させた。それがEVだ。

 ここまでの歴史を振り返ってみれば、欧州の「そこまで言うか?」と思うほどのEVシフト(と、諸外国へのアピール)は、時系列で考えると、迷走を重ねた欧州が行き着いた先、と見たほうが正しいのでは、と思う。

CAFE規制とムービングゴールポスト

 この問題の重要なポイントに、欧州が定めたCAFE(企業別平均燃費基準)というのがある。パリ協定と連携して定められたこの規制は、メーカー毎の規制地域内販売実績に対し、年を追って段階的に平均CO2排出量規制を強化していこうというものだ。

 言ってみればクラスの平均点で罰金を設けるような制度である。これがCO2問題に対し、欧州全体がオフィシャルに定めたルールであり、だからこそこれを基準に日本のメーカーは開発を計画し、進めてきた。

 いまさら全欧州基準であるCAFEをないがしろにして、EU各国がばらばらな独自ルールを決めて「わが国では●●年以降はEV以外認めない」などと言い出すのは、明らかなムービングゴールポストであり、信義に反する。そもそも地球温暖化という問題に対して取るべきアプローチはあくまでもCO2の削減であって、それに対応するためにどういうシステムを構築するかは手段でしかない。目的と手段がすり替わると、大抵敗因につながるのが世の倣いである。

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