トヨタは2021年12月14日の「バッテリーEV戦略に関する説明会」(バッテリーEV=BEVは電池に蓄えた電力のみで動くいわゆる“電気自動車”、以下本文ではEVと表記)における発表で、16台のEVプロトタイプを並べ、2030年までにBEVを30車種投入し、年間350万台を基準におく計画を発表した。
この意味を、かなり多くのメディアが誤解している。

「トヨタがやっとEVに本気になった」「トヨタはようやくEVに舵を切ったが遅きに失した」とか「グリーンピースの指摘を受けておっとり刀でHEV(ハイブリッド車)からEVに方針転換した」という見方は、情報収集の貧弱さを露呈する分析である。
バッテリーEVの説明会でも明らかになったが、トヨタは傘下の豊田通商を通して、2006年から南米でのリチウム鉱山開発に直接乗り出している。この2006年の意味は重い。テスラにイーロン・マスク氏が初めて資本参加したのが2004年であり、第4代CEOに就任したのが2008年である。彼のテスラCEO就任より前から、バッテリー原材料の確保に回っていたことに「出遅れ」というレッテルを貼るのはもはや理解不能である。
「EVへ全力投球」はミスリード
そして、EVへの注力ばかりが目立つのもミスリードだ。
そもそもトヨタは今回の発表で、EVに4兆円、その他に4兆円の投資準備を発表しており、その投資比率を見ながら、「EVに絞って全力投球」という分析はありえない。
トヨタは1000万台メーカーであり、仮に最大の350万台がEVになったとしても、まだ650万台はその他の動力システムが必要になる。ここを無視していては事業計画にならないし、世界最大級の自動車メーカーとしての使命が果たせない。
例えば新型ランドクルーザーには、EVはおろかHEVも存在しない。この事実をもって「今さら惰性で内燃機関のみのクルマを発売するなんて」という見方をする人もいる。だが、これは明らかに間違いだ。トヨタにとってランクルというクルマはそんなに軽くない。

どういうことかというと、ランクルの企画の段階では、「電動化をどうするのか」について、絶対に議論がなされているはずだからだ。
トヨタ社内で熟慮を重ねての末に、「カーボンニュートラル(CN)を巡る状況と、ランドクルーザーのユーザーのニーズを考え合わせると、あくまでも現段階ではだが、EVもHEVも不要である」という判断が成された、と考えるべきだ。今後どこかのタイミングで電動化モデルが追加されるかもしれないし、そうなるとすれば、レクサス版のLXが先行する可能性は高い。トヨタはレクサスを「電動化を牽引するブランド」と位置づけているのだ。
自動車産業を巡るほぼ全ての動きは、現在CNの重力下にあると言ってもよい。その中でも、トヨタのCNに対する取り組みは凄まじいもので、言ってしまえば昨年1年間のトヨタのほぼ全ての動きは、CNに対してどう対応していくのかが地響きのごとく根底にあったと言ってもいい。
昨年筆者が参加したトヨタの取材イベントを時系列で振り返ってみよう。
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