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 縁あって、日経ビジネス電子版に連載させていただくことになった。

 担当編集氏から、まずは自己紹介を書けと言われているので、そこから始めよう。筆者は先ごろ、さる所に記事を書いた折りに「自動車経済評論家」と言う肩書をもらい。周り中の「それいいじゃん」に流されるまま、それを名乗っていくことになった。

 自動車経済評論家ってなんだ? と説明を求められれば、まああれだ。工業製品として、あるいは趣味としてのクルマを基点に、そのクルマが造られた背景に遡っていこう、みたいなもの。経済評論家がクルマを語る、つまりビジネス(経済)の眼でクルマを見る、というのとは違う。あくまで「先にクルマありき。ただし、ビジネスとしての背景もちゃんと抑える」、ということだ。

 当たり前ではあるけれど、自動車を造るに当たっては国内外の規制があり、経済や市場の動向があり、技術のトレンドがあり、メーカーの方針や思惑がある。取材をすると、「なんでこういうクルマを造ったのか」(=背景)は、ちゃんと教えてくれる。その説明に納得がいく場合もいかない場合もあるが、結局のところ、「理屈はともかく出来上がりのクルマはどうなのよ?」という所がちゃんとしていなければ意味が無い。

 例えば「原価低減」。
 企業の経営にとってはものすごく大事なことで、コスト掛け放題でクルマを造るなんてことはもうどこもやっていない。けれども「原価を下げればそれでいいのか」といえばそんなわけはなく、クルマそのものもちゃんと良くなっていってくれないと困る。ローコスト指向だけが突出すれば、製品の魅力が失われ、原価は減ったが売上高も落ちた、ということになりかねない。

 トヨタのヤリスの例が分かりやすいかもしれない。ヤリスは、先代にあたるヴィッツと比べて、「シャシーの原価は下がっている」とトヨタは言う。けれどもその走りは圧倒的によくなっている。それは乗ればわかる。だから、「じゃあ、どうしてコストカットしながらいいモノが作れるようになったのか?」というところを掘り下げていく。

トヨタ・ヤリス(写真:トヨタ)

 そんなふうに、商品と経営を両方からチェックするところが自動車評論家でもなく経済評論家でもなく、自動車経済評論家ということになるのだと思う。まあ全部できているかどうかは怪しいけれども、そういうスタンスで自動車経済評論というのをやっていくつもりである。

 さて、連載に際して編集担当と打ち合わせをやった。開口一番、担当編集は「池田さん、クルマの話だけでは多くの読者は喜んでくれません。冒頭に日常生活の与太話を書いて下さい」と言い出した。

 いやいや、そんなことを言われるとは思ってなかったのでびっくりしたけれど、言いたいことはわかる。件の担当編集氏はフェルディナント・ヤマグチ氏の担当でもある。ようするにアレをやれと言うことらしい。

 ヤマグチ氏ほど人間も生活も面白くない筆者は、ちょっと困った。それに自分が書くとどうやったって理屈っぽくなる。「池田さん、フェイスブックでよくうまそうなメシの話を書いているじゃないですか」「仕方がない、毎回、なんかうまいモノの紹介でもやりますか」と、それで勘弁してもらうことになった。

 クルマに試乗する機会は大きく分けて2つある。ひとつは試乗会。これは「いついつどこそこに来い」と呼ばれて乗りに行く形。1時間とか1時間半とかの枠を決められて、エンジン別だったり、駆動方式別に何台かに乗って、そのあとエンジニアに話を聞いて帰ってくる。こういう試乗会ではETCカードもあらかじめ挿入されていることが多く、給油もしないでよい。まあ有り体に言えばタダでクルマに乗れる機会だ。

 もうひとつは、メーカーが持っている広報車を借り出して、自分で勝手に試乗に行く。こっちはもちろんガス代、高速代は自腹で、返却時には満タンと洗車が掟である。なので予算不足の昨今、どこの媒体も媒体としてはあまり広報車を借り出さない。「借りてもいいですけど、ライターさんの自腹でお願いします」みたいな話だ。

 けれども、やっぱり1時間やそこらの試乗ではわからないこともある。なので、試乗会で乗って良かったなぁと思うクルマは、個別に借り出して試乗に行く。

 筆者が最近ルーティンにしているのは房総半島一周の約300キロ。都心を出てアクアラインを渡り、館山自動車道で富津あたりまで南下したら、房総半島を横断して鴨川へ。この途中は山越えなので多少くねくね道がある。そこからずっと海沿いを下って、房総半島の南端、野島崎を回って、東京湾沿いに白浜を過ぎた先にあるのが「漁港食堂だいぼ」(〒294-0314 千葉県館山市伊戸963-1)だ。ここの昼飯が楽しみだ。

 水産会社直営で、地引き網船を所有しているので、水揚げ直送の新鮮な魚が食える。特に青魚はもう鮮度が命。そういう意味では漁船直送の恩恵はデカいのだ。まぐろなんかは熟成がいるので、また別だけれど、熟成系の仕事もちゃんとしている。そっちもうまいのでご心配なく。

 何を食ってもうまいけれど、特にお薦めは「旬の地魚 秘伝の漬け丼」、税別1280円也。たまに奮発して鰺の刺し身なんかも付けたりする。それでも2000円かそこらである。漬けはオリーブオイルとニンニクがベースで、基本塩味。これが本当にうまい。ちなみにそういう変わった味が苦手な人には普通のしょうゆ味の漬けもある。