『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)などの著書がある日本体育大学の須永美歌子教授は、10代のときの過度な減量や無月経に関し警鐘を鳴らすなど、未来の女性アスリートに向けて体調管理の大事さを訴え続けてきた。スポーツの裾野が広がる中、部活動に取り組む女子中高生や、本格的に競技に取り組む女性アスリートはどのように自分の体やコンディションに向き合うべきなのだろうか。須永教授に聞いた。

須永先生自身も走り幅跳びの選手でした。選手だった当時と、今とで、女性アスリートを取り巻く環境はどのように変わったと感じていますか。

須永美歌子教授(以下、須永氏):体育の教員を目指し、日本体育大学では陸上部に所属していました。陸上部は木曜・日曜は完全休養日でしたが、球技などの部活のほとんどは毎日遅くまで練習していました。学生だった当時は、月経やPMS(月経前症候群)とスポーツの関係について考えることもなく、周りに相談することもありませんでした。なんとなくタブー視されていたように思います。

<span class="fontBold">須永美歌子(すなが・みかこ)氏</span><br> 日本体育大学教授<br> 1998年に日本体育大学大学院体育科学研究科修士課程修了。2008年に昭和大学医学部で博士号を取得。08年、東京大学大学院新領域創成科学研究科特任研究員。16年4月より現職。
須永美歌子(すなが・みかこ)氏
日本体育大学教授
1998年に日本体育大学大学院体育科学研究科修士課程修了。2008年に昭和大学医学部で博士号を取得。08年、東京大学大学院新領域創成科学研究科特任研究員。16年4月より現職。

 自分自身が変わったきっかけは、大学2年生のときに腎炎を患ったことです。医師から「運動をしちゃダメだ」と言われました。体育の授業で、実際に生徒の前で手本を見せる――そんな先生になる未来を思い描いていたのですが、運動できなくなってしまったのです。

 その後、選手ではなく主務として陸上部に関わりました。結果的に良かったのは、視野が広くなったことです。競技力の向上や勝つことを目指すだけではなく、健康の維持や増進のために体やスポーツのことを考えるようになりました。

 女性アスリートを取り巻く環境で大きく変わったのは、スポーツの場で活躍する女性アスリートの数が増えていることです。これは世界的な傾向です。

 オリンピックに参加する選手の男女比率を見ると、(1992年開催の)バルセロナオリンピックでは女性選手の比率が約30%でした。それが、今回の東京オリンピック・パラリンピックに参加する選手は男女ほぼ同数になるといわれています。男性中心だったスポーツの歴史が徐々に変わりつつあります。

アスリートのトレーニング方法に男女の違いはあるのでしょうか。

須永氏:これまで一般的だったのが、男性と同じ練習メニューを、回数を減らして女性選手にも課すというやり方です。ただ、それとは異なるやり方を採り入れる部活や競技団体も増えてきています。

 男女の骨盤の大きさを比べると分かりやすいのですが、女性は骨盤が大きいですよね。男性は骨盤から膝までの脚の骨が地面に対してほぼ垂直になっているのですが、女性は骨盤が大きいので、脚の骨が付け根から膝にかけて外側から内側に入り込むような角度がついていることが多いのです。そのためジャンプした後の着地の際などに内股になりがちで、バレーボールやバスケットボールなどのジャンプが多い競技で前十字靭帯などのけがが増えてしまう。今では膝周辺のトレーニングを取り入れることで女性選手の怪我や負担を減らせることが分かってきました。

 女性を「小柄な男性」として捉えるのではなく、そもそも体つきが違うことを知る。その上で、体と心のコンディショニングを整える必要があるのです。

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